セールスフォース、インフォマティカ統合でAIエージェント向け「信頼できるコンテキスト基盤」を提供
Data 360・MuleSoftと3層構造でデータ断片化を解消
セールスフォース・ジャパンは2026年3月5日、メディア・アナリスト向けのブリーフィングを開催し、データマネジメント企業Informaticaとの連携強化を発表した。Informaticaは2025年11月に買収が完了し、同年3月1日付でインフォマティカ・ジャパンがセールスフォース・ジャパンへ統合されている。今回の発表は、その統合を受けた日本市場向けの具体的な戦略展開であり、AIエージェントが自律的に機能するための「信頼できるコンテキスト(文脈)」をData 360、MuleSoft、Informaticaの3製品で提供する体制を整えたことを意味する。
ブリーフィングの冒頭、専務執行役員 製品事業統括本部 事業統括本部長の三戸篤氏は、Agentforceの直近の業績をアップデートした。「Agentforceをご利用いただいている顧客の契約数が29,000件と、対前四半期比で50%の成長になった。AIエージェントを単に使い始めているフェーズを超え、顧客自身がAIエージェントを活用してより良いサービスを提供し、収益を上げるというフェーズにすでに入ってきている」と語った。一方で、エージェンティック エンタープライズの実現にはAIモデル(LLM)だけでは不十分だとも指摘し、「AIモデル以外にも必要な要素があり、4つのレイヤーに整理して1つのアーキテクチャとして届けていく」と今回の発表の背景を説明した。
AIエージェントの"失敗"が起きる本当の理由
AIエージェントの導入が日本企業の間で加速する一方、期待通りの成果が出ないケースも少なくない。その根本原因として同社が指摘するのが「データの断片化」と「コンテキストの欠如」だ。
常務執行役員 インフォマティカ事業部 営業統括本部長の小澤泰斗氏は、約600名のCDO(最高データ責任者)を対象とした調査「CDO Insights 2026」を引用しながら現状を説明した。「約半数の企業がすでにビジネスにエージェンティックAIを使い始めている。一方で、どのデータが本当に正しく業務で使える状態にあるのかを模索しているのが2026年のAIの現状だ」と述べ、データの信頼性確保こそが今最大の課題だと強調した。
AIエージェントが自律的に正しく推論しアクションを実行するには、情報の断片を寄せ集めるだけでは不十分で、ビジネスの背景・履歴・データ間の相関関係を含んだ「信頼できるコンテキスト」が欠かせない。しかし日本企業の多くは、ERPや古いレガシーシステム、複数のクラウドにデータが分散しており、クリーンなデータ基盤の構築が大きな課題となっている。
4層アーキテクチャの「文脈基盤」を担うInformatica
同社はエージェンティック エンタープライズの実現に向けて、4つのシステムレイヤーを単一のアーキテクチャに統合している。人とAIが共に働く「System of Engagement」、AIエージェントの構築・展開・監視を担う「System of Agency」、業務プロセスを集約した「System of Work」、そして今回の中核となる「System of Context」だ。
System of Contextを構成するのがInformatica、MuleSoft、Data 360の3製品である。Informaticaは、Salesforceの境界を越え、ERP・サプライチェーン・財務・製造など企業全体のデータエコシステムを横断してエンタープライズ規模のデータ管理を担う。大規模なデータ変換(ETL/ELT)、データカタログの作成、データ品質の向上、マスターデータ管理(MDM)を通じて「唯一無二の真実(ゴールデンレコード)」を生成する役割だ。MuleSoftはアプリケーション・API・AIエージェントをつなぐインテグレーション・レイヤーとして機能し、Data 360はSalesforceネイティブなデータエンジンとして、ゼロコピーテクノロジーでSnowflakeなどの外部データに直接アクセスしながらAgentforceやTableauへリアルタイムのコンテキストを提供する。
Unlock・Trust・Activateの3ステップでAIの信頼性を担保
インフォマティカ事業部 ソリューションエンジニアリング本部 エバンジェリスト & アカウントソリューションエンジニアの森本卓也氏は、3製品が生み出す価値を「データバリューチェーン」として説明した。「信頼性のないデータを解放してもうまくいかないし、どれだけ信頼性を高めても最終的に業務で活用されなければ価値には繋がらない。3つのフェーズすべてを統合されたプラットフォームの上で一連のバリューチェーンとして繋ぐことが不可欠だ」と述べた。
まずデータの解放(Unlock)として、MuleSoftのリアルタイム連携とInformaticaのETL/ELTにより、ERPやレガシーシステムに散らばるデータを人とAIが理解・利用可能な形に引き出す。次にデータへの信頼性付加(Trust)として、InformaticaのMDMとデータガバナンス技術で表記揺れや重複を排除し、ゴールデンレコードを作成する。これによってAIのハルシネーションやセキュリティリスクの最小化が図られる。最後にデータの活用(Activate)として、クリーンでガバナンスの効いたデータをData 360経由でAgentforceへ提供し、MuleSoftのAgent FabricによるAIエージェントの一元管理も合わせて行うことで、企業全体で統制された顧客体験の向上を実現する。
製品統括本部 プロダクトマーケティングディレクターの前野秀彰氏は、セールスフォース自身がこのアーキテクチャで自社課題を解決した事例を紹介した。「SalesforceのCRMの情報と基幹・財務関連システムとの間で情報の不整合という問題が生じていた。Informatica MDMでゴールデンレコードを作成し、MuleSoftであらゆるシステムに連携させ、Data 360でCRMの顧客データと紐付けてAgentforceで活用するという構成をSalesforce自身もフル活用している」と語った。この取り組みによって重複アカウントを20%削減、税額調整を98%削減、手作業によるガバナンスを100%排除したという。
データの信頼性を確保するInformatica統合と、接続可能な外部サービスの裾野を広げるMCP対応──この2つの軸が組み合わさることで、セールスフォース・ジャパンは日本企業のエージェンティック エンタープライズへの移行を後押しする体制を整えた形だ。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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