ゆずたそ氏が予測、AI時代のデータ基盤はメッシュ構造/今後はデータの「中間テーブル管理方法」が肝に
システムを刷新するも使い物にならない……そもそも「社内ニーズ」は満たせているか?
生成AIが急速に普及する一方で、組織の現場で「期待を超える成果」にはまだ届いていないのが実情だ。その成否を分ける大きな要素は、データの質と量である。だが現場に目を向けると、データのサイロ化やメタデータの不整備といった課題が足かせとなっている状況が散見される。生成AIの登場でデータ活用の現場が大きく変化する中、データ基盤の現在地点と主要論点について、“ゆずたそ”こと風音屋 代表取締役 横山翔氏がEnterpriseZine編集部の主催イベント「Data Tech 2025」で考察した。
システム刷新は「使われる」ために運用せよ 現場起点で進めるデータ基盤の再構築
データは、売上変動の原因特定、キャンペーン効果測定、機械の故障検知、最適な経路検索など、ビジネスにおける様々な場面で効果を発揮する。最近は、こういったデータ活用にAIを組み込むことを視野に入れる企業が増えているが、データプラットフォーム刷新の必要性を認識しつつも具体的な進め方に課題を感じている現場も少なくない。
一般的にシステムを刷新する際は、主にリファクタリング(振る舞いを変えずに中身を変える)、リアーキテクティング(モジュールやコンポーネントの構成を変える)、ビッグ・リライト(ゼロから作り直す)といったアプローチが考えられる。どの方法でも、現状の仕様を可視化・整理して、テストを自動化しながら少しずつシステムを置き換えていく形が望ましい。
よく耳にする話として、レガシーシステムを刷新している最中にベンダー側が新機能を発表・提供し、システムの再構築が終わったときには構成が時代遅れになってしまったという事例がある。このような事態を防ぐためには、システム刷新を“日常的に”行うことが必要だ。
「システム刷新自体を日常的に行うことが難しいのであれば、“優先順位”を決めていく必要がある」と、“ゆずたそ”こと横山翔氏は語る。たとえば、システムの中でも「問い合わせが多い事象」「データの利用頻度が高い部署」「ボトルネックがある箇所」といった重点領域を見極め、順に刷新していく。そして、IT部門自らがデータ利用を促す立場として率先してデータを用いて意思決定をしていくことが重要だ。また、事業や経営方針に沿うように、事業戦略とデータ・システム戦略を連動させていくことも必要であろう。
株式会社風音屋 代表取締役 横山翔(ゆずたそ)氏
リクルート、メルカリでデータ活用を推進したのち、AWSを経て風音屋を創業。Googleが認定する技術エキスパート「Google Developer Experts」、東京大学 経済学研究科 金融教育研究センター 特任研究員、情報処理推進機構(IPA)にて情報処理技術者試験委員などを担当。主な著書・訳書に『実践的データ基盤への処方箋』『データマネジメントが30分でわかる本』『アジャイルデータモデリング』がある。そのほか、コミュニティ「datatech-jp」の立ち上げ・運営など、データに関する情報発信を積極的に行ってきた。
また、システムを刷新していこうにも、ツールやソリューションが日進月歩で進化し、調査や運用に十分な工数を割けないこともあるだろう。そういった場合のひとつの方法として、希望者が利用したいツールを各自で検証してもらい、選りすぐられたものを技術基盤チームが検証してから取り込むのもアリだ。
その場合、IT部門は希望者に検証観点を提示することが重要である。「セキュリティの観点で問題がないか」「現行のツールよりも生産性が向上するか」など、ガイドラインを示しながら希望者に自発的に利用してもらう。このように、“現場が欲しいもの”を取り込んでいくことで、刷新すべきポイントも判断しやすくなるだろう。
こういった形で既存システムを運用しつつ、新システムの試験導入を経て順次切り替え、旧システムは廃止していく。それぞれのROIを考慮して、少しずつ置換していくことを繰り返していけば「結果的に、よりモダンな基盤に変わる」と横山氏は述べる。
なかには実際に刷新したものの、保守運用がうまく回らず使いものにならないケースもある。その場合、「刷新されたシステムはそもそもニーズを満たしているか」という点に着目すべきだという。「データ活用施策の投資対効果を考えられているか」「顧客体験や業務フローをどのように改善するか明確化しているか」といった点を、システムを構築する前に考えられているかどうか、振り返ってみることが重要だ。
試しに、ニーズを5W1Hの形で特定してみよう。たとえば「経営陣が(Who)、毎週何曜日の何時に(When)、この会議で(Where)、サービス利用状況を知るために(Why)、主要導線UU率の変化を(What)、会議アジェンダに添付されたダッシュボードのURLから見る(How)」。このように、目的などを明確化した後に、データが活用につながっているのか検証する。
また、その検証はきちんとできているだろうか。本格的なシステムを作る前にFigmaやExcelでレポートのモックアップを作り、ニーズを満たせるかどうかをあらためて検証するほか、データの「入口(生成箇所)」を検証することも重要だ。インタビューやプロトタイプを用いて、必要なデータが取得できるか検証していく。そして、データの入口と出口(利用箇所)がしっかりつながっているか検証していこう。
「システムは作って終わりではありません。構築後も、データ利用ガイドを社内に提供したり、社内勉強会を開いたりなど、“使われるための努力”をしているか、もう一度見直してみてください」(横山氏)
また、運用がうまく回らない問題に対して「そもそも真面目に運用しているのか」という問題提起も同氏は投げかける。データ基盤を運用するにあたっては、データ管理者がデータオーナーとデータユーザーを仲介する役割となって、品質水準を最適化していく必要がある。
各ステークホルダーと会話を進める中で生じた「ToDo」を、チケットとして管理していこう。ToDoに優先順位をつけていきながら、そのタスクを潰していくことが重要である。そのほか、チャットツールで相談場所を設けたり、疑問が投げられたときに自動対応するチャットボットを構築したりするなどの施策も有効だ。たとえば、Slackを窓口にしてGoogle Cloudのデータを参照する場合は「Conversational Analytics API」を使うと簡単にAIエージェントを構築できる。
加えて、インシデント対応を仕組み化しておくことも重要な要素のひとつだ。たとえば、期待するデータ品質が満たされないときにどのように対応するか予め定義し、作業手順や障害レポートを事前にテンプレート化しておくことを怠ってはいけない。こういったサイクルを週次ミーティングなどで定期的に振り返りながら、改善アクションにつなげていくことが、効果的なシステム運用のカギだ。
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加山 恵美(カヤマ エミ)
EnterpriseZine/Security Online キュレーターフリーランスライター。茨城大学理学部卒。金融機関のシステム子会社でシステムエンジニアを経験した後にIT系のライターとして独立。エンジニア視点で記事を提供していきたい。EnterpriseZine/DB Online の取材・記事も担当しています。Webサイト:https://emiekayama.net
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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