“場当たり的ETL連携”で絡まったデータ基盤を阻止せよ──「疎結合なAPI戦略」に導く実践3ステップ
第2回:IT部門が果たすべきは「安全な交通網」の提供? 理想と現実の比較で見つける“データの分断点”
連載「理想論で終わらせない『AIのためのデータ整備メソッド』」では、「データの把握」「データの整備」「データの活用」の3フェーズに分けて、AI時代のデータ利活用に向けた実践的なアプローチを解説しています。今回は、データ整備に関わる課題で必ずといって良いほど指摘される「サイロ化」と「属人的な業務プロセス」の“断絶”について、根本的な課題に触れます。まず何から着手してどこに向かえば良いのか、AI時代のスピードにも対応できるデータ基盤を構築するための「3つの柱」を提示し、変化に強いITインフラの設計図の書き方をガイドします。
あるあるデータ課題の「断絶」、どう乗り越える?
連載第1回の前回では、企業におけるデータ整備の出発点である「課題の把握」に焦点を当て、日本企業でデータ利活用を阻む4つの壁を整理しました。具体的には、①部門最適で導入が進められたシステムの乱立により、部門横断でデータが取れない「データの分散・サイロ化」、②業務の属人化によってデータ連携や自動化が進まない「業務プロセスの壁」、③拡張・連携が難しく改修コストがかさむ「レガシーシステムの課題」、そして④“守り”や“受け身”に偏ることで主体的関与が難しい「システム部門の課題」の4つです。これらが複合的に作用し、企業独自のデータという武器を使いこなせない状況にある、というのが前回の内容でした。
連載第2回となる本稿では、これらの壁のうち、特に「データの分散・サイロ化」と「業務プロセスの壁」を主な要因とする“断絶”の乗り越え方について詳細を解説していきます。販売データや顧客情報などの分断されたデータを、全社横断的に分析・活用できる「信頼性の高い資産」へ転換する道筋を示します。
断絶を乗り越えるにあたって要となるのが、以下の3つの柱です。
- 業務プロセスの標準化:“理想”と“現実”をつなぐハイブリッドアプローチ
- データ統合基盤の構築:“疎結合”を実現するAPIファースト戦略
- データガバナンスの確立:“攻めの活用”を支えるガードレールの実装
1. 業務プロセスの標準化:“理想”と“現実”をつなぐハイブリッドアプローチ
前回の連載で、業務やデータフローを統合していくにあたっては、部門最適化された属人的な業務プロセスが障壁になっていることを解説しました。しかし、全社の業務プロセスや業務システムをトップダウンで標準化するとなると全社規模の一大プロジェクトとなり、数年を要するでしょう。AI技術が進化するスピードを考慮すると最適なアプローチとはいえません。
ここで必要なことは、AI活用に必要な「データフロー」に焦点を絞ったアプローチ。以下3つのステップで実現できます。
ステップ1:「あるべきデータフロー」の定義
業務プロセス全体を無理に変えようとするのではなく、特定のAI活用ユースケース(例:需要予測、顧客解約予測など)において、「どのデータが、どのタイミングで、どのような形式で集まるべきか」という「あるべきデータの流れ(データフロー)」を定義します。対象を絞ることで、関係部署との合意形成を迅速に行いやすくなります。
ここで重要な点は、このプロセスを現場任せにせず、CIOや責任者が自ら参画し、全社最適の視点で指揮を執って進めること。トップの積極的な関与がデータフロー定義を達成するか否かの命運を分けるといっても過言ではありません。
そして、この「あるべきデータフロー」を定義することには、もう一つ重要な戦略的メリットがあります。それは将来的にAIエージェントを導入する際、その効果を最大化するための布石となることです。この設計図があることで、AIエージェントに「どこからどこまでの業務を自律的に任せるか」という実行範囲が明確になります。
反対に、この全体像を描かずにAIエージェントを導入すれば、結局は既存の分断された業務の中で「Excelの操作を代行する」といった単なる作業の一部代替に留まってしまい、ビジネスプロセス全体の変革という大きな果実を得ることはできません。
ステップ2:現状プロセスとの分断点の特定
次に、定義した「あるべきデータフロー」と、実際の業務プロセスを比較し、データがスムーズに流れていない分断点を洗い出します。
具体的な例を挙げてみましょう。「販売実績」は基幹システムに、「在庫データ」は倉庫管理システムにあり、両者が直接連携していないとします。この状況でデータを突き合わせる場合、各担当者が手作業でデータを抽出し、Excelで結合しているなどの作業が発生しているでしょう。これこそが、データがスムーズに流れていない分断点といえます。
ステップ3:分断点を補う「ブリッジ」の構築
既存の業務プロセスは、当面は維持するのがベターです。その上で、定義した「あるべきデータフロー」を実現するために、ワークフローシステム、RPA、iPaaSといったツール群で分断点を補う「橋(ブリッジ)」を架けます。具体的には、基幹システムと倉庫管理システムから必要なデータをAIが利用しやすいDWHなどへ統合するパイプラインを構築する、などが挙げられます。
このアプローチの最大のメリットは、現場の業務を大きく変えることなく、短期間でAI活用に必要なデータの収集を開始できる点です。これは、システム部門が「現場の効率化に貢献する攻めのIT」へと役割を変革するための重要な第一歩となります。まずは小さな成功事例を作り、その効果を経営層と現場に示すことが、全社展開へのカギを握るのです。
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前田 佑一郎(マエダ ユウイチロウ)
合同会社デロイト トーマツのマネジャー。 データ連携基盤のアーキテクチャ設計、構築(開発リード)を専門とし、官民のデータ連携基盤導入に向けたコンサルティング経験を多数有する。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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