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富士通「中長期経営ビジョン2035」発表 AI市場で3兆円のビジネス獲得目指す、量子コン開発にも意欲

 富士通は2026年5月28日、2035年度に向けた10年間のロードマップを示す「中長期経営ビジョン2035」を発表した。同社はこれからの10年間を「Technology-drivenの価値創造」の期間と位置づけ、社会や経営がAIによって自律的に駆動するAI-drivenな世界への変容に対応するという。説明会には代表取締役社長 CEOの時田隆仁氏が登壇し、テクノロジーによる新たな事業の創出と、主要事業であるサービスソリューションの事業拡大・進化の2軸を柱とする経営戦略について語った。

富士通株式会社 代表取締役社長 CEO 時田隆仁氏

 時田氏は、「世界が少子高齢化や労働力不足、気候変動といったマクロな社会構造変化のほか、テクノロジーの進化にともなうサイバーリスクやサプライチェーンリスク、地政学リスクなどの多角的な課題に直面している」と述べる。これらの構造変化に対し、“信頼できるテクノロジー”で解を導くことが同社のパーパスであり目標であるとした。

 具体的には、AIの利用拡大によって急増する電力需要やグローバル依存による技術主権(ソブリニティ)のリスクに対して、信頼と省エネルギーを実現する計算基盤「Sovereign Platform」を提供する。また、労働人口減少にともなう生産性低下に対しては、人とロボットが協調・自律的進化を遂げる「Physical AI」を、自然災害の常態化や社会運営の複雑化に対しては、実世界の各種データを統合するデジタルツインで施策を高度化する「Intelligent Society」を展開し、これら3つの新領域を軸に社会課題の解決を図るとのことだ。

 同社の推計によると、2035年のAIサービス世界市場は200兆円規模、そのうち同社が狙う新たな事業創出領域は30兆円規模にのぼると算出されている。富士通はこの30兆円の市場に対して、テクノロジーを起点に社会変革を牽引し、10%にあたる3兆円規模のビジネス獲得を目指すとした。この新たな事業創出を支える同社の強みとして、時田氏は「顧客のラストワンマイルに価値を届ける実行力をもつ顧客基盤」「今までに培ってきた深い業種業務知見」「ソブリニティを担保する独自の先端テクノロジー基盤」の3点を挙げる。

 テクノロジー基盤の具体策として、同氏は最先端プロセスノードのCPU開発ロードマップを発表。スーパーコンピュータ「富岳」で培った技術をベースに、2nmプロセスを採用し独自の機密計算機能を備えた「FUJITSU-MONAKA」を2027年度に提供開始する予定だとした。FUJITSU-MONAKAの性能について「競合他社比で実行性能2倍、電力効率2倍を2027年度の時点で推定値として達成する」と語り、高信頼・省電力な計算基盤としての優位性を強調する。

 今後も、NPUやGPUを密結合した「FUJITSU-MONAKA-X」(1.4nmプロセス・2029年度)、光電融合(Co-Packaged Optics)技術を導入した「FUJITSU-MONAKA-XX」(2031年度)と、10年先を見据えた継続的な開発を進める方針だ。

 また、量子コンピューティング領域では、2024年度で256量子ビット、2026年度で1,024量子ビットの実機開発を進め、2030年度には10,000超の物理量子ビットあるいは250論理ビットの論理量子ビットを有する量子コンピュータの開発を計画している。2035年度には1,000論理ビットへの到達を目指し、HPCと量子、AIを組み合わせたハイブリッド計算技術により世界をリードするとした。加えて、独自技術であるSTARアーキテクチャにより、限られた少ない量子ビット数であっても実用的な量子計算を実現すると語られた。

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 グローバルエコシステムへの対応としては、国内外の戦略的パートナーとの技術統合を加速させる。説明会の中では、2026年5月27日付で発表されたAnthropic PBCおよび米国OpenAI社との戦略的提携について触れられた。先端的なAI技術と同社の業種ドメイン知見、ミッションクリティカルなシステム構築・運用力を融合させることで、日本企業のAXを本格化させるとともに、重要インフラや社会基盤の安全性・信頼性強化に貢献するとのことだ。

 Physical AI領域においては、同社独自のAIプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi」のラインアップとして、デジタルとフィジカルをシームレスにつなぐ「Fujitsu Kozuchi Physical OS」の展開を発表。これは、複数のメーカーで仕様が異なるロボットやセンサー、実世界の空間データ、人の活動データを統合管理し、空間全体の協調制御や自律的な行動制御を行う基盤となるものである。

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 そのほか、NVIDIAとの戦略的協業拡大やカーネギーメロン大学との共同研究を通じて技術の高度化を推進し、製造、小売、物流、医療、建設といった現場の生産性向上や熟練技能者のノウハウ継承といった課題を解決していくという。

 Intelligent Society領域では、官庁・行政、ヘルスケア、物流、製造、防衛などの領域に大規模データ基盤を構築し、AIの自律的学習によって未来の予測や社会運営の最適化を支援する取り組みが進められている。ヘルスケア領域では、日本アイ・ビー・エムとの医療向けソブリンクラウド基盤構築や医療AIソリューションの相互活用、さらに三井住友フィナンシャルグループおよびソフトバンクとの協業による個人起点での国産ヘルスケア基盤の構築など、2026年5月に相次いで具体化したデータ連携・プラットフォーム構想が説明された。

 防衛ビジネス領域については、安全保障環境の変化を背景に「先端技術による防衛領域の価値創出」を拡大する。米ロッキード・マーティン社との間で量子コンピューティング、リアルタイムデータ融合を活用したエッジコンピューティング、先進マイクロエレクトロニクスなどのデュアルユース(軍民両用)技術開発を共同で加速させる覚書を締結したことや、海上自衛隊の全物資情報をリアルタイムで一元管理する基幹業務システムを2026年5月に構築・提供し、継戦能力の強化に貢献していると語られた。

 また、主要事業であるサービスソリューションについては、AIをサービスに全面的に取り込み、すべての開発をAI駆動とすることで事業モデルの転換を加速させるという。時田氏は「これからのサービスソリューションは、人月ベースのモデルから脱却し、データコンサンプションやビジネスアウトカムといった顧客価値提供ベースのプライシングモデルへ変革する」と述べ、生産性向上による収益構造の改革を掲げた。

 同社の成長事業である「Fujitsu Uvance」に関しては、業種ドメイン知見と業種特化型AIエージェント、FDE(Forward Deployed Engineer)の体制強化を競争優位の中核に据え、2025年度から2030年度にかけてCAGR(年平均成長率)プラス20%超の成長を目指す。

 これにともない、グローバル全体のマネジメント体制を従来の「リージョン軸(地域毎の意思決定)」から、グローバル全体でシームレスな事業運営を行う「業種軸(業種毎の意思決定)」へと移行させ、事業のスピードと質を高めるとのことだ。Uvanceの拡大に向けた具体的なパートナーシップとして、米Palantir Technologiesの「Palantir AIP」に関するライセンス契約を締結し、金融や防衛などの機密性の高い分野をはじめとする国内外のオファリングへ組み込みを開始したという。

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 システムの刷新を担うモダナイゼーション事業については、自社モダナイゼーションで培った知見、モダナイゼーションマイスター(高度専門人材)および「Fujitsu Application Transform Powered by Kozuchi」をはじめとする独自ツールを基盤とし、他社領域やAIネイティブ領域への展開を推進、CAGRプラス10%超の成長を計画している。

 システムデリバリ(開発・運用)体制においては、自律的なマルチAIエージェントが連携してシステム設計、コーディング、テスト、デプロイを自動で行う「AI-driven Development」を本格化させる。時田氏は、同社の自社LLM「Takane」を核とする自己進化マルチAIエージェント技術により「開発実証実験における効果として、開発の生産性を約100倍に高められた」と語った。各リージョンに分散していたデリバリ人員を「Oneデリバリ体制」へと集約・標準化し、全プロジェクトの90%以上にAIを活用することで、デリバリ工程全体の生産性を2倍以上へ引き上げる方針だ。

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 財務目標および資本政策(キャピタルアロケーション)について、富士通はサービスソリューション事業の進化と効率化によって獲得した経常的なフリーキャッシュフロー(コアFCF)を原資とし、今後10年間で3兆円規模の成長投資枠(研究開発、先端人材獲得、資本業務提携、M&A等)を新規事業創出領域へ機動的に投入していく。

 連結売上収益については、2025年度見込みの3兆5029億円から、2035年度にかけて年平均6〜9%の持続的な成長を計画している。連結の調整後営業利益率は2025年度の11.2%(利益額3905億円)から、2035年度には25〜30%の水準へと引き上げるとした。

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 株主還元策としては、総還元性向60%を目安とする全体ポリシーを維持し、利益成長に合わせた安定的な増配を継続する。また、資本効率の改善を目的とした機動的な自己株式取得を進める。実績として、2020年度からの3ヵ年平均で730億円だった自己株式取得額が、2023年度からの中期経営計画(2023〜2025年度)期間において3ヵ年平均1500億円規模へと拡大しており、2026年度も1500億円の自己株式取得を予想していると語られた。

 これらの成長投資と最適なキャピタルアロケーションの結果として、目指すべき財務KPIに「調整後EPS(1株当たり利益)の2025年度から2035年度にかけてのCAGR 15%超」「調整後ROE(自己資本利益率)20%超」の達成を掲げ、持続的な企業価値の拡大に向けて経営基盤およびガバナンス体制を再設計していくとのことだ。

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奥谷 笑子(編集部)(オクヤ エコ)

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