SUSEがプラハから発信した「ソブリン」を支える5つの道筋──ベンダーロックインから抜け出す「デジタル主権」の考え方
「SUSECON 2026」 レポート
「ソブリン」(主権:sovereignty)が、ここ数年のIT業界のキーワードになっている。EUのデジタル主権関連法、米国発のベンダーロックイン批判、AIが利用するデータの管理責任──文脈は多岐にわたる。日本でも経済安全保障の流れを受け、国内データセンターの設置やガバメントクラウドのリージョン要件、外資ベンダー依存の見直しといったマルチベンダー戦略が議論される。こうした「設置場所」や「調達元」をめぐる地理的・調達的な論点は、デジタル主権を考えるうえで欠かせない出発点といえる。2026年4月にチェコ・プラハで開催された「SUSECON 2026」は、その議論をさらに一歩進め、「特定のベンダーやデータ基盤に縛られず自由でいられるか」という、より深い問いを提起したイベントだった。
CIOが感じる「閉じ込められた感覚」
SUSECONのキーノートで、SUSE CEOのDirk-Peter van Leeuwen氏(以下、DP氏)は「ITパートナーは顧客を縛るのではなく、自由を与えるべきだ」と宣言し、データ・運用・技術それぞれの「主権」と、ベンダーロックインを打破する「主権」というフレームを打ち出した。
DP氏は、グローバリゼーションの危機とサプライチェーンの不安定化が進むなかで、従来の特定ベンダー依存から脱却し、状況に応じて柔軟かつ迅速に対応できる戦略を顧客が重視し始めていると指摘する。前職のRed HatからSUSEに移籍して以降、CIOやCTOへのヒアリングを重ねてきたといい、その多くが不足を抱えているという。AI導入の要請、コスト削減の圧力、サイバーセキュリティ強化の要求、そしてレガシーインフラとの連携──相互に矛盾するこれらの圧力が同時に課されている。SUSEはこの状況を「レジリエンス」という言葉で束ねる。「CIOとして何をすべきか、何をやめるべきかを判断するのは非常に難しい。現在の予算問題を特定のベンダーやソリューションで解決するのか、新しい技術に移行するのか、AIをどのように組み込むのか。これが私たちが言う『レジリエンス』の意味するところだ」──講演後のメディアラウンドテーブルでも、DP氏はこう語っている。主権の確保は、こうしたレジリエンスを実現するための土台と位置づけられる。
オープンソースの意義を補強する形で、エアバスD&S(Airbus Defence and Space)でシニア・バイスプレジデントを務めるNico Reuter氏が登壇した。同社はユーロファイターEF-2000のような戦闘プラットフォームから、Google Earthが利用する地球観測衛星、NASAアルテミス計画のサービスモジュールまでを手がける。Reuter氏は「オープンソースは未来を切り開く鍵であり、完全に監査可能なコードによるセキュリティの強化、そして信頼できるソリューションの供給システムを構築する主権の源でもある」と述べた。
ソブリンとは何か──「閉じた環境に縛られないこと」
ではSUSEは「主権」をどう定義するのか。DP氏はこう語る。「主権を持ちたいが、現在のベンダーに制限されているなら、SUSEが支援する。SUSEなら、閉じた環境に縛られることはない。必要なときに自由に変更できる。設計上オープンであり、選択によって主権を守る」。
主権が顧客にとって意味するのは、コントロール・透明性・監査可能性の確保だとDP氏は整理する。物理的にデータがどこに置かれているか、ではなく、いま依存しているプラットフォームから「離脱できるか」「切り替えられるか」が問われる。この話を受け、続いて講演を行ったChief Strategy OfficerのFrank Feldmann氏は、「出口速度(Exit velocity:悪い取引からどれだけ速く抜け出せるか)」と「方向転換能力(Pivot ability:ビジネスを止めずに新しいプラットフォームへ移れるか)」という言葉を提示した。価格改定やコア数ベースのライセンス変更、求めていない製品のバンドル販売を「人質状態」と表現し、フランス政府がMicrosoftとの契約解消を発表した事例にも触れる。「IT業界に20年以上いるが、国家がベンダーXを排除すると公式に表明する場面を見たのは初めてだ」とFeldmann氏は述べた。
主権は契約後に確保するものではなく、契約前の設計段階で組み込んでおくべきもの──Feldmann氏の議論は、こうしたSUSEの主権観を示しているといえる。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZine/AIdiverには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail ...
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