SUSEがプラハから発信した「ソブリン」を支える5つの道筋──ベンダーロックインから抜け出す「デジタル主権」の考え方
「SUSECON 2026」 レポート
ソブリンを支える5つの道筋
ソブリンと対をなすキーワードがレジリエンスだ。2日目のキーノートで、SUSEで最高技術・製品責任者(CTPO:Chief Technology and Product Officer)を務めるThomas Di Giacomo氏は「2026年、硬直的で静的な方法ではレジリエンスを得ることはできない。耐え、適応し、動き、進化できるビジネスを築くことだ」と述べ、顧客が直面する共通課題に対応する形で、主権を実装するための5つの経路を提示した。生き残りのための守りの概念ではなく、変化のなかで成長する能力としてレジリエンスを置き直す試みとも受け取れる。
1. ソブリンの基盤:「もはや譲れないもの」になった
第1の経路は主権そのものである。SUSEがこの領域で優位に立つ要素として、欧州企業として顧客に欧州の選択肢を提供できること、主権プレミアムサポート、主権チェッカー(顧客環境のソブリン要件適合度を診断するツール)の3点をDP氏は挙げた。「今後も主権に関するパートナーシップを次々と発表していく」とも予告された。これに連動するパートナー認定プログラム「Sovereign Specialization(ソブリン・スペシャリゼーション)」も発表され、DellやAtosが初期参加企業として名を連ねる。
2. クラウド:ハイブリッドとマルチクラウドの前提化
第2の経路は、クラウドワークロードの管理方法である。「顧客はクラウドで取引したい。しかしAI導入に伴いオンプレミスに戻る動きも見られる。ハイブリッドクラウド戦略はここで非常に共感を呼んでいる」とDP氏は述べる。SUSEはこれに応えるかたちで、自社の全製品ポートフォリオを主要なマーケットプレイス経由で利用可能としてきた。今回のSUSECONでは新たにOracle Cloud Infrastructure(OCI)が加わり、SUSEの全製品が提供される──「一部ではなく、すべての製品」だという。
3. コスト:Red Hatロックインからの解放
第3の経路はコスト管理である。DP氏はここで「SUSE Linux Support for Red Hat」の意義を直接的に語った。「RHEL(Red Hat Enterprise Linux)やCentOSの環境をそのまま維持できる。何も操作する必要はない。更新リポジトリの参照先を切り替えるだけで、適切なコストでサポートを継続する」。現在のベンダーがサポート終了したLinuxバージョンも対象に含まれる。「準備ができたら移行すればよい」──Red Hat Enterprise Linuxのライセンス体系というもう一つの主要なロックインから、漸進的に脱出する経路を提示しているといえる。
4. モダナイズ:SLES 16とVMware脱出
第4の経路がモダナイゼーションで、ここで主役となるのが新OS「SLES 16(SUSE Linux Enterprise Server 16)」である。DP氏はこれを「Linuxを再びワクワクさせる」と表現し、生成AIを統合した初のプラットフォームとして、仮想マシンからコンテナへの移行、データセンターからエッジへの変革を扱うために設計されたと説明した。「単なるOSではない。適応のためのプラットフォームだ」。
仮想化に関しては、CloudBase Solutionsとのパートナーシップが発表された。同社のVM移行ツール「Coriolis」をSUSE Virtualizationに直接統合し、vSphereからSUSE Virtualizationへの完全自動移行、ハイパースケーラー上のVMワークロードをオンプレミスへ戻すリパトリエーション(パブリッククラウドからオンプレミスへの回帰)、そしてSAP HANAクラスターの主権準拠移行までを自動化する。CloudBaseでCEOを務めるAlessandro Pilotti氏は「ソースVMを稼働させたままデータを増分でレプリケートし、最終的にカットオーバーする方式で、ユーザーは何も気づかない。ビジネス継続性は完全に保たれる」と説明する。新規SLESサブスクリプション購入時にはCoriolis移行権利が10件付帯し、既存のSUSE Virtualization利用者には5件の試用権が提供されるという。
5. AI:主権ビジネスのために設計された「SUSE AI Factory」
第5の、そしてDP氏が「最もホットな話題」として最後に取り上げたのがAIである。「オープンであることは、AIにとってさらに重要だ。独自のブラックボックスモデルに依存するなら、レジリエンスはない。他人から知能を借りているようなものだ」──DP氏はこう述べたうえで、「SUSE AIは主権ビジネスのために特別に設計されている」と語った。
ここで発表されたのが、基調講演の目玉となる新製品「SUSE AI Factory with NVIDIA」である。SUSE AIとNVIDIA AI Enterpriseを基盤に構築され、ローカル開発からスケーラブルなエンタープライズ生産までをつなぐ「AI機能のためのデジタルファクトリー」だとされる。エッジからパブリッククラウドまで、AIの展開・管理を可能にする。ステージにはNVIDIAでエンタープライズソフトウェア担当バイスプレジデントを務めるJohn Zanelli氏が登壇し、「SLES 16やRancher Primeから、インフラレベルでNVIDIAの技術を活用している。NIM(NVIDIA Inference Microservices)には時間制限のないモデルがあり、それを基にお客様が使いやすいよう設計図(ブループリント)を共同で作成している」と述べた。NVIDIAがSUSEを選んだ理由について、Zanelli氏は「共同製品を規制された業界だけでなく、主権的な展開にも持ち込む能力は非常に魅力的だ」と語っている。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZine/AIdiverには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail ...
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