“場当たり的ETL連携”で絡まったデータ基盤を阻止せよ──「疎結合なAPI戦略」に導く実践3ステップ
第2回:IT部門が果たすべきは「安全な交通網」の提供? 理想と現実の比較で見つける“データの分断点”
2. データ統合基盤の構築:“疎結合”を実現するAPIファースト戦略
サイロ化されたシステム群のデータにブリッジを架ける際に最も避けたいのが、システム間を個別のETLツールで場当たり的に連携させることです。これを行ってしまうと、システムはスパゲッティ状態、言い換えれば、計画なく作られた細い路地が無数に張り巡らされた古い街のような状態になってしまいます。これではメンテナンス性が著しく低下し、将来を見据えた拡張や変更に耐えられません。
我々が目指すのは、計画的な都市開発(ITインフラ整備)です。その中核となるのが、API(Application Programming Interface)を街の「幹線道路」と位置づける、データ統合基盤の構築といえます。各システム(建物)はこの幹線道路に接続するだけで、他の建物と連携できるようになります。これが、お互いが依存しすぎない柔軟な「疎結合」アーキテクチャです。以下の3ステップで実現できます。
ステップ1:APIゲートウェイの導入
まず、すべての幹線道路が交わる交通の要所として「APIゲートウェイ」を設置します。これは、高速道路の「ETCゲート」のようなもので、ここに認証・認可、アクセス制御、モニタリングといった機能を集中させることで、「どの車(利用者)が、いつ、どの道路(データ)を利用したか」を正確に記録し、また権限のない車はゲートを通過させないなどの統制を一元的に管理できるようになります。
これにより、データが「誰によって、どのように利用されたか」というデータリネージ(来歴)の起点を確実に押さえることができ、ガバナンスの基盤が築かれます。
ステップ2:既存資産を「業務サービスAPI」として提供
次に、APIを持たないレガシーシステムといった既存の建物から、先ほどの幹線道路へつながる「接続道路」を整備します。
ここで重要なのは、その接続道路の「名前」。単に「Aシステム接続路」といった技術的な名前では、誰もその道を使おうとは思いません。「顧客情報を照会する」「最新の在庫状況を確認する」といった、利用者が理解できる「業務の言葉」で命名された“業務サービスAPI”として提供することが不可欠です。そうでなければ、せっかく整備した道路も、結局は誰も使わない無用の長物と化してしまいます。IT部門は、既存の機能を「業務の言葉」に翻訳し、誰もが使いたいと思えるサービスとして提供する役割を担うのです。
ステップ3:データカタログの整備
次のステップとして、「目的地(欲しいデータ)に行くには、どの道路(API)を使えば良いか」「その道路はどこから来て(データの出所)、どこにつながっているのか(使われ方)」といった情報を、利用者が自ら発見できる環境を整えることが必要です。これをデータカタログで実現します。
特に、データの出所から加工・利用までを可視化するデータリネージの情報は、データの信頼性を判断する上で極めて重要です。この地図があることで、データ利用の民主化が加速し、新たな活用アイデアが生まれやすくなります。
APIファーストは単なる技術選定の手段ではなく、「自社のデータを再利用可能な資産として管理するための経営戦略」です。既存資産を生かしつつ、将来のSaaS導入やシステム刷新にも柔軟に対応できるこの基盤は、変化に強いITインフラを構築する上で不可欠な投資といえます。中長期的に見れば個別連携の開発・運用コストを大幅に削減し、IT部門の生産性を向上させる要素となります。
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- この記事の著者
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前田 佑一郎(マエダ ユウイチロウ)
合同会社デロイト トーマツのマネジャー。 データ連携基盤のアーキテクチャ設計、構築(開発リード)を専門とし、官民のデータ連携基盤導入に向けたコンサルティング経験を多数有する。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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