なぜ生成AI/AIエージェントのPoCは成功しても業務で使われないのか? 顕在化してきた課題とは
第1回:AIはあるのに使えない理由とは? 現場で起きている「データ活用の断絶」
多くの企業が「自社のデータがわからない」状態に 解決の糸口は
さらに深刻なのは、先述したような前提があるにも関わらず、自社がどのようなデータをもっているのか把握できていないケースが少なくないことです。
AI推進プロジェクトの担当者は、自部門のデータについては把握しています。しかし、他部門のデータまで十分に把握できていないことがあります。その結果、本来であれば組織横断的に活用できるはずの情報がAIに渡されず、限られたデータだけで学習や推論が行われてしまうのです。
当然ながら、企業には膨大なデータが存在しています。しかし、その存在を知らない、利用方法がわからない、アクセスできないという理由で活用できていないケースが散見されます。AIの活用フェーズが進むほど、この問題は顕在化します。なぜなら、AIは企業全体の知識やデータを活用できて、初めて価値を発揮するからです。
そして、もう一つ重要になるのが「データの鮮度」です。
従来のBIは、過去のデータを分析するためのものでした。昨日の売上、先月の利益などを把握することが主な目的だったため、リアルタイムにデータを取得できなくとも大きな問題ではありませんでした。
実際、多くの企業では、業務システムから夜間バッチでDWHへデータを集約し、「T+1(翌日反映)」のデータとして、“翌日に分析する”というアーキテクチャが長年採用されてきました。限られたネットワーク帯域や計算リソースを効率的に活用するという当時の技術的な制約に加え、過去のトレンドや経営実績を振り返る「静的なBI」の用途においては、この「バッチ処理によるバッファ」こそがシステムの安定性とデータ整合性を担保する、極めて合理的な設計だったといえるでしょう。
しかし、AIは未来の行動をサポートする存在です。不正取引を防ぐ、設備の故障を予測する、需要変動に対応する、顧客へ最適な提案を行う……これらの業務においては、リアルタイムデータに基づいて「今、何が起きているのか」を把握することが欠かせません。
特に、AIエージェントが判断を担うようになると、リアルタイム性はさらに重要になります。たとえば、在庫情報や顧客情報が更新されているにもかかわらず、AIが数時間前のデータを基に判断すれば、誤った発注や案内をしてしまうことでビジネス上のリスクにつながる可能性があります。
特に、人間による最終チェックを介さず、AIが自律的にアクションを起こす「AIエージェント」においては、AIの性能が高いかどうか以前に、参照するデータが「今、この瞬間」の最新状態(リアルタイム)であること自体が、業務品質と安全性を左右する絶対条件になるのです。むしろ、古いデータで判断するようなAIエージェントは、業務上のリスクを生んでしまいます。
つまり、AIが企業活動の中核へ近づくほど、最新のデータを継続的かつリアルタイムに利用できる環境が求められるのです。
AI活用が進まない原因は、モデルの性能や人材不足だけではない
企業のAI活用が進まない理由として、モデルの性能や人材不足が語られることは少なくありません。しかし、それだけでは説明として不十分でしょう。
PoCと本番のギャップ、業務プロセスの再設計、データの品質、データマネジメント、そしてリアルタイム性──現実には、こうした複数の課題が複雑に絡み合っています。
前述したように、AIを機能させるためには必要なデータが、必要なタイミングで流れつづける環境が必要です。しかし、実際の企業システムは、部門ごとに分断され、複数のクラウドやシステムへ分散しています。
次回は、なぜ企業がこうした課題を認識しながらも解決できないのか。その構造的な要因について掘り下げます。そして、近年再び注目を集める「データ・イン・モーション」という考え方が、なぜ今重要になっているのかを考察します。
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吉田 栄信(ヨシダ エイシン)
Cloudera株式会社 ソリューションズ エンジニアリング マネージャークラウド、ビッグデータ、データガバナンス、PaaS、Webアプリケーションなどの分野で、アーキテクチャ設計や実装に携わってきたソリューションエンジニア。2019年6月にCloudera株式会社へ入社。入社以前は、DXCテクノロ...
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