問い合わせ対応の沼から情シスを解放へ──ZendeskのAI統合の「自律型サポート」がEX変革を導く
国内大手企業も続々“乗り換え” 従業員サポートで日本は「世界2位」の重要市場に
SaaSの乱立やツールの多様化にともない、社内ITを支えるIT部門の負担は増大の一途をたどっている。パスワードリセットや権限付与といった定型対応に追われる現状は、IT担当者の生産性を下げるだけでなく、一般従業員の従業員体験(EX)をも損ねる要因となりかねない。こうした運用の分断を打破すべく、Zendeskは年次イベント「Zendesk Relate 2026」において新たなビジョンを提示した。同社が打ち出したのは、従来のボットによる問い合わせ回避から、人間と特定のタスクに特化したAIエージェントが協働して問題をエンドツーエンドで解決する「自律型サポートワークフォース(Autonomous Service Workforce)」へのシフトである。本稿では、同社が示す新たなITサービスマネジメント(ITSM)のロードマップと、それがもたらすEX変革の価値について、最新の機能アップデートや担当役員への取材を交えて紐解く。
ツールのサイロ化を打破する「自律型サポートワークフォース」の思想
従来のヘルプデスクでは、チケット管理、資産管理、コミュニケーションツール、そして社内ナレッジがそれぞれ分断されており、IT担当者が1つのチケットに対応するために複数のツールを何度も行き来しなければならなかった。このツールの分断による負担により、平均修復時間(MTTR)を長引かせ、EX(従業員体験)の低下を招いていた。
Zendeskの最高経営責任者(CEO)であるトム・エッグマイヤー(Tom Eggemeier)氏は、これまでの「チャットボットによる単純な問い合わせの回避」の限界を指摘する。「ソフトウェア単体ではうまくいかず、AI単体でも成功しない。世界最高峰のコードであっても、分断された運用プロセス自体を修復することはできない」と語り、人間と特定のタスクに特化したAIエージェントが密接に連携して機能する「自律型サポートワークフォース」の重要性を説いた。
Zendeskはこのビジョンの実効性を証明するため、自社のITおよびサポート組織に自社プラットフォームを適用する実践プロジェクト「Zen on Zen」を推進。その結果、AIによる自律解決率60%以上を達成、手作業によるチケット対応を30%削減、CSAT(顧客満足度)20%向上、さらにNPS(ネットプロモータースコア)を倍増させるという成果を収め、自律型サポートワークフォースがもたらす価値を自ら実証してみせた。
サイロ化した非構造化データを網羅的に検索する「Unleash」の統合
従業員サポートのDXを阻む大きな障壁の1つが、情報のサイロ化である。顧客向けのサポートナレッジが公開Webサイトに集約されているのに対し、社内向けのナレッジは、Google ドライブやSharePoint、Confluence、さらにはSlackやTeamsのチャットログといった企業の内側に、形式の定まらない非構造化データとして散在しているからである。
Zendeskが買収した「Unleash」のエンタープライズ検索技術は、これら70以上のコンテンツソースを横断的に検索しつつ、企業が設定している「データ閲覧権限(アクセス制御)」を厳格に順守する点が特長である。たとえば、従業員から給与体系などのセンシティブな質問があった際、AIは質問者がその情報を閲覧する権限を持っているかを確認。権限のない一般社員には回答を拒否し、閲覧権限を持つ人事・労務の担当者に対してのみ、データを提示するのだ。この強固なガバナンスこそが、安全な社内AI活用の大前提となる。
さらに、新たに標準搭載されたIT資産管理(ITAM)機能は、IT担当者のスイッチングコストを削減する。従来のITヘルプデスクでは、JamfやMicrosoft Intuneなどの資産管理ツールとチケットシステムが連携しておらず、シリアル番号の照合やデバイスのスペック確認を手動で行う必要があり、多くの時間が割かれていた。Zendesk内にITAMが統合されたことで、IT担当者はチケット画面から離れることなく、該当従業員のデバイス情報を即座に確認できる。さらに、画面上からワンクリックで紛失デバイスの遠隔消去や再起動を実行可能になり、サポート業務のEXが向上するとした。
また、現場の役割に合わせて最適化されたCopilotポートフォリオも、IT部門の業務をアシストする。
- エージェント(担当者)Copilot:過去の対応履歴から自動で最適な回答手順(ワークフロー)を生成し、導入初日から即戦力として機能する
- 管理者Copilot:チケットの急増や運用上のボトルネックを自動検知し、自然言語で指示するだけで、新たなルーティングルールなどの設定変更をシステムが提案・自動適用してくれる
- アナリストCopilot:複雑なデータダッシュボードを構築することなく、「なぜ今、特定の障害チケットが急増しているのか」を自然言語で問いかけるだけで、データセットをノーコードで分析し、根本原因を特定する
MCPへの対応と、AIを安心して採用できる開発時のガバナンス体制
AIと外部システムを接続するためには、IT部門が多数のAPIやエンドポイントを個別に構築・メンテナンスする必要があり、膨大な開発・運用コストが発生している。これに対し、ZendeskはAnthropic社が提唱するAIのユニバーサル接続規格「Model Context Protocol(MCP)」への対応を発表した。
MCPクライアントの導入により、AIエージェントやエージェントCopilotは、一度接続を確立すれば、外部システム(GitHubやSentryなど)からエラーログを取得したり、自動でチケットを作成してSlack通知を飛ばしたりといった一連のアクションを、自律的に実行できるようになるという。また、MCPサーバーを介してZendesk内のデータを安全に外部LLM(ChatGPTなど)と接続し、自社のガイドラインに沿った回答を生成させることも可能だ。
Zendeskの最高法務責任(CLO)を務めるシャナ・シモンズ(Shana Simmons)氏は「企業のAI採用における最大の障壁は、技術的な機能不足ではなく、システムに対する『信頼』の欠如にある」と指摘する。
そこでZendeskでは、企業が安心してAIを大規模展開できるよう、ガバナンス、コントロール、結果管理という「3つの信頼の柱」を確立している。法務やセキュリティのチームが製品開発の初期段階から関わる開発プロセスを徹底し、AI管理に関する国際規格「ISO/IEC 42001」などの第三者認証も取得することで、IT管理者が安全かつ健全にAIを運用できるガバナンスを担保しているとした。
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- この記事の著者
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小山 奨太(編集部)(コヤマ ショウタ)
EnterpriseZine編集部所属。製造小売業の情報システム部門で運用保守、DX推進などを経験。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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