SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

EnterpriseZine(エンタープライズジン)編集部では、情報システム担当、セキュリティ担当の方々向けに、EnterpriseZine Day、Security Online Day、DataTechという、3つのイベントを開催しております。それぞれ編集部独自の切り口で、業界トレンドや最新事例を網羅。最新の動向を知ることができる場として、好評を得ています。

最新イベントはこちら!

EnterpriseZine Day 2025 Summer

2025年6月20日(金)オンライン開催

EnterpriseZine(エンタープライズジン)

EnterpriseZine編集部が最旬ITトピックの深層に迫る。ここでしか読めない、エンタープライズITの最新トピックをお届けします。

『EnterpriseZine Press』

2025年春号(EnterpriseZine Press 2025 Spring)特集「デジタル変革に待ったなし、地銀の生存競争──2025年の崖を回避するためのトリガーは」

AIX Leaders Interview

損保社長からAIスタートアップへ転身/「Cursor」によるプロダクト開発で現場を変える

GenerativeX 執行役員 CDXO 桑原茂雄さんインタビュー

 生成AIの普及で「非エンジニアでも手を動かし、AIを武器に業務を刷新するHands-on型リーダー」が台頭しつつある。本連載はそうしたリーダーの実践と思想を深掘りし、DXを超える現場変革のリアリティを提示する。第1回は東京海上グループのイーデザイン損保社長からGenerativeX執行役員に転身した桑原茂雄氏。コーディング未経験から2ヵ月で、生成AIツール「Cursor」を活用し実践的なAI開発スキルを習得した同氏の経験から見えてきたのは、「小さく作る」「細かく指示する」「公開してフィードバックを得る」という実践的アプローチの重要性である。

「変革屋」の決断/大手損保からAIスタートアップの最前線へ

──まずは桑原さんのご経歴について教えてください。

桑原:私はずっと東京海上グループで、いわば「変革屋」として生きてきました。「現場の根本から変える」ことにこだわってきました。ただ、私自身はPMOや経営サイドとして指揮は執っても、実際の開発や実装はやってこなかった。要件定義やお客様体験にはとてもこだわりましたが、コードを書いたことはありませんでした。「じゃあお前書いてみろよ」と言われても、全く無理でしたね(笑)。

 AIにも早くから興味を持ち、東京海上時代にはIBM Watsonを導入して照会対応システムを作ろうとしました。当時は“コグニティブAI”と言ってましたが、膨大な質問例や模範回答を作ってもなかなか思うようにはいかず……。でも「今後は間違いなくこの方向に行く」と粘り強くやり続けていました。

 イーデザイン損保では、AIによる不正請求検知やデータ活用も推進し、SalesforceのEinsteinなども積極導入し、カスタマーセンターなどのCX(顧客体験)向上にAIをどう使うかに力を入れました。

 ただ、社長を7年やって60歳になった時、ふと「もう一度、根っこから変革に取り組みたい」「大企業だけでなく、日本全体の現場を変える側に立ちたい」と強く思ったんです。

 転職はごく普通の求人サイトに登録しただけです(笑)。新しいことにチャレンジしたい、大企業を変革したいと書いたら、ある日「ピッタリの会社がある」と言われて。それがGenerativeXでした。

 「生成AIで企業現場を根本から変えていく」──このビジョンに共鳴し、給与や安定よりも“やりがい”を取って飛び込みました。

Cursorを徹底的に使い掴んだ開発のコツ

GenerativeX 執行役員 CDXO 桑原茂雄氏
GenerativeX 執行役員 CDXO 桑原茂雄氏

──GenerativeXでの開発現場はどのようなものなのでしょうか?

桑原:うちは「生成AIインテグレーター」と名乗っていますが、営業もコンサルも、実際のコーディングも、1人3役でやる会社です。私も現場で課題をヒアリングし、自分で手を動かしてプロトタイプを作る──現場に根差したものづくりが基本です。

 開発ツールはDevin[※1]も使いますが、私はCursor[※2]派。Cursorは1つ1つ確認しながら、まるで積み木を積むように細かく作れる。まずPowerPointで画面や業務プロセスの全体像をざっくり描いて、「ここにこのボタン、ここにこういう画面」と要件を自然言語でまとめます。社内環境は「Next.js」「Chakra UI」を用います。

Cursorによるアプリケーション開発

[※1] Devin: ソフトウェア開発を自律的にこなすAIエージェント。要件定義、設計、実装、テスト、デプロイといった、従来人間が行っていた作業を自動で実行する。

[※2] Cursor: AIを活用してコーディング作業を効率化するコードエディタ。チャットでリポジトリ全体を検索し、文脈を理解して補完・リファクタ・自動修正を実行する。

──コーディング未経験でAI開発、どんな苦労がありましたか?

桑原:いやあ、本当に七転八倒でしたよ(笑)。コーディングらしいコーディングなんて、このGenerativeXに入ってからの2ヵ月間が人生初体験ですからね。最初の1ヵ月は、毎日が泥沼。Cursorに「これやりたい」「こんな風に作ってくれ」と、とにかく思いつくまま指示を投げる。でも、返ってくるコードや出力がどんどん迷子になっていく。最初はそれっぽく動くけど、修正を重ねるうちに、もうどこがどうなってるのか自分でもわからなくなる。

 「ここ、こう直してほしい」「あ、やっぱり違う」とその場しのぎの指示を重ねていったら、どんどん事態がカオスになっていく(笑)。夜中になっても、Cursorと押し問答みたいなやりとりばかりで、気がつくと明け方……。「ああ、これもう1度全部やり直した方が早いな」と、チャットもプロジェクトもまるごと新しくして、1からスタート。そんなことを何度も繰り返してました。

 でもやめようとは思わなかったんです。どうしても自分のイメージ通りに動くものを作りたかったし、「これができれば現場はもっと楽になる」「新しい価値が生まれる」と信じていたからです。

 だんだん気づき始めたのは、「AIは細かく、的確に、1つずつ指示しないとうまく動かない」ということ。1度に全部まとめて頼むと、途中で文脈がずれて壊れてしまう。「まずトップ画面だけ」「次はこのボタンだけ」「この時のAPIはこう」と、本当に積み木を積むように少しずつ作っていく。その都度、Cursorが何をやっているかをチェックして、「違ったらすぐ修正、あるいは潔くやり直す」。あれこれ悩んでいるより、とにかく小さく区切って、細かい作業を繰り返す方がずっと速い。命令口調のプロンプトでシンプルに、「ここをこうして」と言い切ると、AIも“本気で”応えてくれる感じがするんです。

 最初はお願い口調で「〜してくれませんか?」と優しく指示していましたが、どうもAIがなめてかかる(笑)。それならと、「これをこうしろ」「次はこれだ」とはっきり言ったほうが結果がシャープになる。そのあたりも経験からの学びです。

 忘れられないのは、何度も“壊れた”開発をリセットした夜明けです。明け方、頭を冷やして1からやり直すと、驚くほどスムーズに動いた。「最初からきちんと細かく積み上げること」「何度失敗しても、迷ったら1度まっさらな状態に戻すこと」。この教訓が、今の自分の開発スタイルの核になっています。

次のページ
「現場に即したAI」──泥臭い課題を最速で解決

この記事は参考になりましたか?


  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
この記事の著者

京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)

ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

EnterpriseZine(エンタープライズジン)
https://enterprisezine.jp/article/detail/22142 2025/06/24 08:00

Job Board

AD

おすすめ

アクセスランキング

アクセスランキング

イベント

EnterpriseZine(エンタープライズジン)編集部では、情報システム担当、セキュリティ担当の方々向けに、EnterpriseZine Day、Security Online Day、DataTechという、3つのイベントを開催しております。それぞれ編集部独自の切り口で、業界トレンドや最新事例を網羅。最新の動向を知ることができる場として、好評を得ています。

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング