イトーキと松尾研究所は7月29日、AIを活用した「オフィスにおけるマルチモーダルデータ活用による生産性評価研究」を開始した。

同 代表取締役社長 湊宏司氏
株式会社松尾研究所 技術顧問 東京大学大学院工学系研究科 技術経営戦略学専攻/人工物工学研究センター 教授 松尾豊氏
株式会社松尾研究所 シニアデータサイエンティスト 大西直氏
同研究では、従来のオフィス稼働データや主観的なパフォーマンスサーベイデータに加え、オンライン上の行動履歴やウェアラブルデバイスによるライフログデータを活用し、働く環境・働き方・働く人の生産性との関係性を多面的に分析するという。目的は「生産性の定義と向上に寄与する行動・環境モデルの構築」と「生産性の客観的な計測・検証手法の確立」の2点だとしている。
同日に開催された記者説明会では、イトーキ 代表取締役社長 湊宏司氏と松尾研究所 技術顧問 松尾豊氏が登壇。湊氏は同研究を始めるに至った背景について「生産性の向上」を挙げる。「昨今、オフィスへの投資は人的資本投資と見なされるようになってきた。これを投資と考えた場合、費用対効果を測定しなければいけない。その指標が生産性だと捉えている」と述べ、そのための行動・環境モデルを構築していくことを目指すとした。
また、松尾研究所と協業する理由について「AIといえば松尾研究所。前職でオラクルにいた頃から松尾研究所にはアプローチしていた。今回やっと念願がかなった」と話す。

これを受け松尾氏は、「以前、生産性の向上に寄与する事項についてデータを活用して研究していた経験もあり、今回の研究テーマはかねてより興味がある分野だった」と述べる。ただ、当時はデータを取れる範囲が限られていたとして「たとえば、データの取りやすいオンライン上の活動だけではなく、オフラインでの活動も分析対象にする必要がある。また生産性を定義すること自体も難しい。このあたりをイトーキとともに取り組んでいきたい」と意気込んだ。

同研究の具体的な内容については、イトーキ 執行役員 ソリューション事業開発本部ソリューション開発統括部 統括部長 八木佳子氏と松尾研究所 シニアデータサイエンティスト 大西直氏が紹介した。八木氏は「イトーキではかねてより、オフィスが生産性や利益率に影響することをデータによって明らかにしてきたものの、なぜそうなるのかという理屈まで十分に説明できる状態ではなかった。今後はこの理屈も含めて明らかにする必要がある」と述べる。
とはいえ、生産性を数値で測ることは簡単ではない。八木氏はその難しさについて「定義の多様さ」と「影響因子の多さ」の2点を挙げ、「何をもって生産性とするのか、定義は様々。また生産性に影響する要素は非常に広範囲にわたるので、なかなか捉えきれない」と説明する。これらをどのように測っていくかについては、これから整理が必要だとした。
続いて大西氏は、ここまでの研究で得られた示唆について説明。一般的に、生産性を上げる因子には人事制度や教育、業務ツールなどがあり、そこから売上などを最適化していくが、今回両社が注目したのは熱意やサポート、コミュニケーションなどの定義化しにくい“中間指標”だという。「なぜ生産性が上がったのか、なぜ上がらなかったのかまで捉えていくためには、この中間指標を含めて全体のアウトプットとして捉えていかなければいけない」と主張した。
加えて、生産性の向上に寄与する因子同士の関係性を把握し、それをモデル化することで、解決策を考えるにあたって重要な示唆が得られると指摘する。
実際のマルチモーダルデータ分析では「生体データ」「サーベイデータ」「位置情報」「オンラインデータ」の4つを用いて分析を行ったという。分析の結果として、以下のような事象が明らかになったとした。
- 睡眠を5~7時間取っている人が最もパフォーマンスが高い傾向にある
- オフィスにおける特定のエリアで長く働いていると、パフォーマンスが高い傾向にある
- 多様な場所にバランスよく滞在している方がパフォーマンスが高い傾向にある
最後に八木氏は、本研究におけるもう一つのチャレンジとして「オフィスの整備と生産性の向上の因果関係を明らかにすること」を挙げる。「よくお客様に、オフィスを整備したらパフォーマンスが上がるのではなくて、もともと売上が高い企業がオフィスに投資しているのではないかと指摘を受ける。その因果関係は現在明らかにできていないが、当社が生産性を上げるオフィス環境を提供するにあたって非常に重要な要素となるので、この研究のなかでクリアにしていきたい」と意気込み、説明会を締めくくった。
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