業務プロセスを可視化するための経営手法といえばBPMですが、思ったような成果が出なかったという評価も耳にします。BPMは業務プロセスの改善やイノベーションの糸口を見つけるために取り組むべきものですが、明確に目的を意識しないと、業務プロセスを表現するだけで終わってしまいます。今回の記事では、BPMを真に使える手段にするために、ビジネスルールアプローチがいかに有効かを説明します。
なぜビジネスプロセスをうまく描けないのか
ビジネスプロセスをモデル化する試みはなぜ失敗しやすいのでしょうか。プロセス図を作ることの意義は、業務をわかりやすく可視化し、改善点を見つけることにあります。ところが、ビジュアライズツールでプロセス図を作成するだけで満足し、その先に進まないというケースが非常に多く見受けられます。
これでは「プロセス図を作成すること」が目的になってしまい、BPMの本来の役割をまったく発揮できていません。
ビジネスプロセスはタスク(手続き)の連なりで表されるものです。これをそのまま図に描いてみると、様々なポイントで分岐が必要になることがわかります。そして分岐点の前段には、ある条件(あるいは複合条件)に応じてその後のタスクを変えるプロセスが必ず存在します。
厳密には「判定する」ことはタスクですが、判定条件はタスクではありません。しかし、IT関係者の多くは慣れ親しんだフローチャートのようにプロセスを記述してしまい、結果として複雑化していきます。こうして最終的にできあがった数十ページにも及ぶ成果物は、複雑すぎて結局業務プロセスの可視化につながりません。そこから有益な情報を得るのは難しいでしょう。
「判断」はタスクではない
例えば、以下はある受注・割引価格適用の例です。ビジネスプロセスのみで描かれたプロセス図は図1のようになります。

プロセス図を描く上で一番重要なポイントは、「判断」をタスクにしないことです。なぜなら、「判断」は条件に応じた結果を導き出すためのルールであり、これは本来、判定順序を問わないもの(IT業界の方には宣言的と言ったほうがしっくりくるかもしれません)だからです。例えば上の図1に描かれているプロセスを、大きく「特別割引判定」というプロセスと捉えると図2のようにシンプルになります。

具体的な割引率、すなわち「判断」は、ビジネスルールとしてプロセス図から切り離しBRMS (Business Rule Management System)で管理します。いわゆるビジネスルール分離です。
分離前の例では、購入者がロイヤル顧客かそうでないかによって3つの状態に分岐し、さらに購入金額や顧客期間に応じて7通りの割引率へとたどり着きます。こうしたルールの領域はシステムの中でも変更頻度が極めて高い部分ですが、このように独立させることでプロセスに影響を与えずに済むという効果もあります。
変動性の高いビジネスルールをプロセスから切り離すことで、構造化モデルとしてのプロセスの安定性をより高めることができるようになります。なお、プロセスとルールの切り分け方については、別稿「意思決定のモデル化がなぜ重要なのか」で触れたモデリング手法「DMN(Decision Model and Notation)」でも説明していますので、そちらもご参照ください。
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佐藤 彰広(サトウアキヒロ)
株式会社アシスト 情報基盤事業部 製品統括部プログレス推進部 Oracleデータベースのエンジニアとして、企画・プロジェクト管理に従事。その後、ビジネス開発部隊として新規ソフトウェアの調査・発掘を経て、BRMS「Progress Corticon」の日本での立ち上げを担う。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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