契約がシステム開発全体を債務とは捉えられない
随分と、ユーザ企業には酷な判決となってしまいました。まず契約が成立していないのだから、SIベンダ側にシステム全体を完成させる債務はないとしています。となると、ユーザ企業側にもお金を払う言われはないとなりそうなところですが、この判決はそこを区別しています。
まず、ソフトウェアのライセンス料については、SIベンダが仕入れて、ユーザも合意の下、納めている、つまり普通の買い物と捉えることができるので、その代金は支払うべきとしています。
また、要件定義費用についてですが、これは他の判決を見ても、支払いを命じることが多いように思えます。例え契約がなくても、商法512条を法源として、顧客のために働いた分は費用として請求できるという判例もありますし、また、要件定義書は、それ自体がユーザの役に立つものである (例えば、この要件定義書を他のSIベンダに見せれば、それを元にシステム開発ができる)から、その分の費用は払うべきという判例もあります。
ユーザから見ると、本当に業務に使えるかどうか分からないソフトウェアに1,000万円を超えるような費用を払うのはリスクである反面、使ってみなければ使えるかどうかも分からないという、袋小路に追い込まれたような状態になってしまうわけです。
ユーザとしては、使えもしないシステムに数千万円のお金を払うと言う結果になってしまったわけですが、他の判決と比較しても、理屈の通った判決ではあります。
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細川義洋(ホソカワヨシヒロ)
ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...
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