富士通で初めてのデジタル部門の創設やサービス開発に取り組んで来た著者の実践に基づくDX連載の第一回。著者は、富士通 デジタルビジネス推進室エグゼクティブディレクターの柴崎辰彦氏。シリーズの第一部となる「DXチャレンジ編」では、「なぜデジタル変革なのか?」その勘所をデジタル推進部門やIT部門のみならず、経営者やリーダーも含めた企業の全社員に向けて実践経験を踏まえて紹介します。
はじめに
筆者は、今から遡ること10年ほど前から富士通の「SEの変革」活動として受託型SE人材を共創型人材に転換する取り組みを試行錯誤を繰り返しながら実践して来ました。社内ハッカソンであるFUJIHACKをはじめ、メディアを活用した部門間の横串をさす活動など、様々な仕掛けや仕組みづくりに加えて、富士通初のデジタル組織の立ち上げやデジタル人材の育成、デジタルサービスの創出に取り組んで来ました。お陰様で当社は、日本の大企業の中では、デジタル変革(DX:デジタルトランスフォーメーション)に積極的に取り組む企業として認知されるようになりました。
ここ数年は、自ら実践して来た経験を踏まえて企業や大学、学会での発表や論文投稿、コンサルティング活動に従事してきているのですが、そこで最近特に感じていることは、デジタル変革の背景や基本的な事項について正しく理解されていないケースが散見されるということです。
今やDXは、子供やお年寄りが見るようなコマーシャルでも"DX、デラックスではなく、デジタルトランスフォーメーション"といわれるように完全に世の中のキーワード(ある意味バズワード)として認識されつつありますが、その背景や本質を正しく理解している人は非常に少ないように思います。
この連載では、自ら実践者として変革を進めて来た経験や数千人に登るお客様への講演を踏まえて世の中の動向を正しく捉え、様々な用語や考え方を識者との意見交換も踏まえ、わかりやすいフレームワークで整理を試みています。現在、デジタル変革を進めている方、あるいはこれから進めようとしている人、デジタル/IT部門に加えて、非IT部門の方々にも是非お読みいただき、自社のトランスフォーメーション-変革活動にお役に立てていただければ幸いです。
これからの連載でDXについていまさら人にも聞けないような基本的事項から実践に必要なフレームワークの理解まで、出来るだけわかりやすい言葉で、比喩や例えも交えながら紹介していきたいと思います。
まず、第一回目は、なぜ今デジタル変革(DX)が必要なのかについて理解を深めていきたいと思います。
VUCAワールドの到来
みなさんは、スイスのIMD(国際経営開発研究所)のドミニク・チュルバン学長が提唱したVUCA(ブーカ)という言葉をご存知でしょうか。VUCAは、記載文字の頭文字を連ねた造語で、変化が激しく(Volatility)、不確実で(Uncertainty)、複雑性に満ち(Complexity)、曖昧性が増している(Ambiguity)、VUCA(ブーカ)は、そんな状況を示す言葉であり、デジタル化の時代を象徴しています。

新型コロナウイルスによる世界的な感染症の拡大やイギリスのEU離脱など、これまで想定しなかった出来事が次々と起きており、現在我々は正にVUCAワールドの中にいるといえます。そして、今やデジタル化の波は全産業に影響を及ぼそうとしており、金融業でのFintechや製造業でのデジタルツインなど各産業のデジタル化に加え、タクシー業界やホテル業界でのUBERやAirbnbといったディスラプターの出現など、あらゆる産業がデジタル化により破壊されるリスクにもさらされています。
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柴崎 辰彦(シバサキタツヒコ)
香川大学客員教授 富士通株式会社にてネットワーク、マーケティング、システムエンジニア、コンサル等、様々な部門にて“社線変更”を経験。富士通で初めてのデジタル部門の創設やサービス開発に取り組む。CRMビジネスの経験を踏まえ、サービスサイエンスの研究と検証を実践中。コミュニケーション創発サイト「あしたの...
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