ビッグバン刷新を可能にした入念な準備を振り返る
酒井真弓:ライオンの基幹システム刷新プロジェクトでは、新旧基幹システムの並行運用とコスト増大を避けるため、旧基幹システムを一斉に停止し、新基幹システムを一気に稼働させる「ビッグバン刷新」を採用しました。100%成功が保証できない限り稼働させられない、非常に難易度の高いプロジェクトだったと聞いています。
酒井由宇:旧基幹システムは、20~40年前の技術をベースにスクラッチで開発し、ビジネス要件に応じて改修・機能追加を重ねてきました。基幹システムが業務に最適化された格好で、業務部門から見れば、原材料の調達から生産、販売までの複数のシステムが、一つのシステムかのようにシームレスに動いていたのです。
でも、IT部門目線では、属人化・ブラックボックス化が進み、障害発生時に担当者しか対応できない状態……。いずれ大問題になるのは目に見えていました。そこで、業務内容をSAPの標準機能に合わせるFit to Standardを目指し、基幹システム刷新プロジェクトがスタートしたんです。
このプロジェクトで私は主に、需給関連の旧システムの統廃合を担当しました。業務と密接に結びついてきたシステムですから、うまくクローズしないと業務に影響が出てしまいます。BPRチームを中心に各地の工場にヒアリングし、既存の業務を新システムに合わせるにはどうすればいいのか、互いに少しずつ理解を深めていきました。その過程で、「使い慣れた旧システムも残してほしい」「新システムにもこの機能が欲しい」などの要望もいただきましたが、「並行利用はできない。必ずこの日に切り替える」と何度もお伝えし、納得してもらいました。
酒井真弓:現場から「この機能がなくなったら困る」と言われると、心情的になくしにくいですよね。葛藤もあったのではないでしょうか。
酒井由宇:それまで業務に寄り添ってカスタマイズしてきたこともあって、感情移入してしまう部分はどうしてもありましたね。良かったのは、先にBPRチームが新しい業務フローを設計し、単に「システムが変わる」ではなく、「新システムではこんなふうに業務が変わる」と、業務目線で説明してくれたことです。これにより、「既存の機能がなくても別の方法で業務を遂行できる」と捉えてもらうことができました。
酒井真弓:丁寧に説明して安心してもらうことで、反発を防ぐことができたんですね。