下呂市はCDO補佐官に“異例”の内部職員・長尾氏を抜擢──人事異動で培った人脈と人柄が武器に
#2:岐阜県下呂市 | 組織文化の変革に挑む若きCDO補佐官が内外を巻き込む

岐阜県下呂市では、やる気ある若手職員(長尾飛鳥氏)をCDO補佐官に登用するなど様々な施策を実施している。長尾氏が特に注力しているのが組織変革。庁内の現場をはじめ、市民や学校での対話など、市役所の内外でのコミュニケーションを通じて人々の意識変革を醸成している。また、デジタル庁と職員を結ぶなど外部との連携にも積極的だ。長尾氏へのインタビューを通じて、内部職員の育成・登用について考える。
人事異動で「ひとり情シス」に……翌年度にはDX担当に立候補
下呂市は人口約27,000人、下呂温泉で有名な山間の自治体である。その下呂市で2022年、山内登市長が自らCDOに就くとともに、CDO補佐官として職員である長尾氏を任命した。驚くべきは長尾氏の年齢である。委嘱された時点で36歳。自治体では異例の若さで登用されたのだ。
長尾氏のそれまでの言動や高い評価が委嘱の背景にあることはもちろんであるが、それにしても異例の登用に違いない。委嘱を言い渡されたときの気持ちを長尾氏に聞いた。
「もちろん驚きはありましたが、それよりも責任感やチャレンジしようという気持ちが強くなりました」と長尾氏。「職員全員に好かれることはないですが、10年後に評価される仕事を目指しています」。このような前向きな人柄を見込んで登用されたのだと筆者も納得した。
長尾氏は一般行政職員である。入職後は健康課を皮切りに、医療対策課、水道料金課、市民課、生活課、企画課情報管理室と渡り歩いた。典型的な行政職員の人事異動であり、情報システム部門に辿り着いたのも偶然であった。
「当時の企画課情報管理室は、いわゆる“ひとり情シス”状態で、異動が決まると周囲から『大丈夫?』と心配されるような部署でした。しかし私は落ち込むどころか、ちょうど自治体でDX推進が始まった頃だったので、それに関心を持ち、DXに関する書籍を読み漁り、動画コンテンツ等でいろいろと学びました。翌年度にはDX推進を専門とする『デジタル課』が新設されることになり、私は迷わずDX担当への立候補を決めました。『うまくいくまで、やりきりたい』という強い思いがあったからです」(長尾氏)
筆者はそれを聞いて舌を巻いた。類い稀な前向きさである。

現場で“生の声”を聞くことで、自身の「当事者意識」を育む
そんな長尾氏が最も力を入れていることは、「現場との対話」である。職員や市民との対話を重視しており、それがDX推進にも役立っていると強調する。
ただし、長尾氏が実践する「対話」はひと味違う。週に一度は庁内で空いている席を探して、その席で仕事をするというのだ。もちろん、現場の管理職の同意は得るが、断られることはないという。長尾氏はその席で(その部署の仕事ではなく)ただ淡々と自分の仕事をする。「現場に行くことで、話を聞くだけでは分からない課題も発見できる」と話す。たしかにそうかもしれないが、凄いというか、普通の人では思いつかない。長尾氏の若さと人柄、そして庁内でこれまで築き上げた信用があるからこその活動であろう。
市民に対しても、長尾氏は積極的に対面での対話を心がけている。総合計画策定に向けた住民とのワークショップはもちろん、高齢者の話を聞き、学校へ行って学生との対話も行う。特に学生に対しては、彼らを「未来人」と呼んで対話を重視している。「現場に乗り込んで仕事する」という活動は、こども園の事務室や消防署、学校の職員室で行うこともあるという。
また、長尾氏は「人を巻き込む」ことも意識している。自分自身はエンジニアとしての経験がないため、技術的なことは専門家に頼るケースもあるし、市民・職員の意識・行動は、彼らを巻き込んで当事者意識を持ってもらわないと、決して変わることはない。その際、重要なことは、自分自身だと長尾氏は言う。
「自分が変わらなければ、人は変わってくれない。まずは自分です」。変革人材とは、このような人材のことを言うのであろう。
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角田 仁(ツノダ ヒトシ)
1989年に東京海上火災保険に入社。主にIT部門においてIT戦略の企画業務を担当する。2015年からは東京海上のIT企画部参与(部長)および東京海上日動システムズ執行役員。2019年、博士号取得を機に30年間務めた東京海上を退職して大学教員へ転じ、名古屋経済大学教授や千葉工業大学教授を歴任した。現在...
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