Pendoの創業者 兼 CEOであるトッド・オルソン(Todd Olson)氏が来日し、2025年11月19日に都内で行われた新ソリューションの記者説明会(Pendo.io Japan主催)に登壇した。
同氏は、「従来のようなセールス主導で売上を伸ばすのではなく、プロダクトそのものが主導し売上を伸ばす」という、2021年頃に台頭したSaaS企業などの成長戦略「プロダクト・レッド・グロース(PLG)」を遂行するための組織を構築する実践的ヒントを書いた書籍『プロダクト・レッド・オーガニゼーション』の著者としても知られる。
Todd Olson(トッド・オルソン)氏
[Founder/CEO, Pendo.io, Inc,]
ここ10年ほど日本はデジタル変革期の最中にあるが、ChatGPTの登場を契機にまた新たな転換点を迎えている。オルソン氏は、これを「AI+SaaS時代の到来」と呼ぶが、「AIはあくまでも我々が築き上げてきたテクノロジーと併せて活用するものであって、既存のテクノロジーを完全に置き換えるものではない」と見解を述べた。
とはいえ、ユーザのソフトウェアに対する期待値には変化が起こっている。「これまでのニーズは、自宅でソフトウェアを使いこなすのと同じような手軽さで、仕事でもソフトウェアを便利に使いこなしたいというものだった」と語るオルソン氏。すべてのソフトウェア体験を向上させることをミッションとし、プロダクト体験の可視化・管理プラットフォームを提供するPendoも、創業時から「いかにユーザーがソフトウェアを使いやすくなる環境を実現するか」に焦点を当てた支援を手掛けてきた。しかし……。
「今やユーザーは『ソフトウェアと会話する』ことを期待するようになっています。期待値が進化したのです。これは、ソフトウェア産業にとっては“ディスラプション(≒破壊的イノベーション)”の訪れです」(オルソン氏)
AIがソフトウェアにもたらす3つのインパクト、Pendoはどう対応するのか
ここでオルソン氏は、AIがソフトウェアにもたらす3つのインパクトと課題を紹介した。
- 変化するインターフェース:クリックやスワイプから、プロンプトや会話へ。ソフトウェアと人の関わり方が根本的に変わりつつあり、それに合わせてソフトウェアの設計・構築に必要となる思想・アプローチも変化している
- コンテキストがすべて:AIの質を決定づけるのは、どれだけの文脈(コンテキスト)やデータが与えられているか。AIは、前提や状況を正しく理解できなければ上手く動作しない。最適なエージェントの実現には、正しいデータが必要
- 成功の鍵はワークフローにあり:重要なのはエージェントそのものではない。どうやって主要なワークフローを自動化させていくのかを考えることが大切
Pendoは、社内のユーザーがどのようにプロダクトを使用しているのか利用状況を可視化・管理できるプラットフォームだ。その中で、「どの機能がよく使われているのか、あるいは使われていないのか。どんな場面で使われているのか。また、ソフトウェア体験に対しどのような感情を抱いているのか、何を求めているのか」をデータとして得て、改善アクションにつなげることができる。主に、新たに導入したSaaSの定着化・デジタルアダプションなどを目的として導入されてきた。

そんなPendoに新たなソリューションが追加された。「Agent Analytics(エージェント・アナリティクス)」だ。オープンβ版として公開されているこのソリューションでは、ユーザーがどのようにAIエージェントを利用しているかを正確に把握できるという。自社で開発したエージェントにも、外部から導入したエージェントにも対応している。前述した3つの課題のうち、1つ目の課題に応えるアップデートである。
「会話型のデータを取得することで、どんなユースケースがあるのか、ユーザーがなぜこのデータを使おうとしているのか、何を求めているのかを特定できます。また、リテンション率(継続率)を計測したり、リピート率やユーザー一人ひとりのフラストレーションなどを測定したりすることもできます」(オルソン氏)

さらに重要なこととして、既存のPendoのインターフェースにエージェントが追加された点に言及するオルソン氏。「これにより、従来型のインターフェースと会話型のインターフェースの両方を活用できる『ハイブリッドなユーザー体験』を可視化できるようになった」と強調する。
プラットフォーム上で得た洞察をもとに、アクションを起こせる機能も搭載している。エージェントが上手く機能しているのはどの場面か、どの部署か。どの部分でイベントの改善余地があるかなどのフィードバックを直接得られるのだ。また、AIをどんな分野や業務で活用できるのかを提案することもできる。これらは、前述した2つ目の課題にPendoが応えていることを裏付ける機能ともいえる。
そして3つ目のワークフローに関する課題。これは、「今の業務を単にAIに置き換えるのではなく、ワークフローそのものを見直し、成果を出せる領域でAIを活用する」という考え方への転換を呼びかけるものだ。これをサポートすべくPendoが新たに発表したのが、「Agent Mode(エージェント・モード)」と称するAI機能である。

Agent Mode最大の特徴、それは「ナレッジや体験がなくともPendoのソリューションを使いこなせる、すべてのバリューを引き出せる」点にあるとオルソン氏は語る。
「従来は、Pendoのソリューションを完全に使いこなすためには、ある程度のトレーニングや体験の蓄積が必要でした。しかしAgent Modeによって、皆さんが実現したいこと、Pendoのソリューションにやらせたいことを直接Pendoに問いかけ、行動させることが可能となります」(オルソン氏)
Pendoが注力しているコアの1つに、「Product Discovery(プロダクト・ディスカバリー)」というワークフローがある。これは、開発・導入したアプリケーションなどからユーザーが望むものをしっかり手にできているかどうかを検証するためのアクションのことだ。いわゆるユーザーインタビューなどがこれに当たるが、これまではそのセッティングに手間がかかるうえ、どうインタビューするか方法に悩むことも多かった。しかしAgent Modeでは、インタビューすべきユーザーの特定からミーティングのセッティングまでをすべてエージェントが代行するという。
技術がコモディティ化する時代は、「体験」こそが最大の差別化要因になる
ここからは、同社の日本法人でカントリーマネージャーを務める花尾和成氏が、日本での事業戦略と現況を説明した。
花尾和成氏
[Pendo.io Japan株式会社 カントリーマネージャー]
花尾氏はまず、クラウドやAIの普及とともに、技術が急速にコモディティ化してきていることを指摘。そんな環境下では、根本のテクノロジーだけで優劣をつけるのは難しいため、「体験」こそが差別化を生む最大の要因になるという思想を前置きとして語った。
では、体験とは何なのか。単に「使いやすさ=体験」なのか。かっこよさや得られる効果は体験ではないのか。その定義を明確にすべく、PendoはCIOが取り組むべきユーザー体験の再定義として、次図のような4つの指標に体験を分類し管理する「Software Experience Management(SXM)」の実践を掲げている。

「ユーザーの行動データを数値化するところから、データに基づいたアクションまでを促し、その後の行動データをもとに再びアクションを促すというループを回していけるのが、Pendoのソリューションです。(中略)エンタープライズでの導入事例も国内でもどんどん増えてきております」(花尾氏)

また、「Pendo道場」という日本独自のサービスも展開している。これは、ユーザーがPendoを最大限に活用できるよう、同社のPdMコンサルタントや技術支援担当者が伴走型で支援を行うサービスだ。最終的に、ユーザー自身が実データをもとにした意思決定を自律的に行えるところまで支援するという。
加えて、日本の現地企業との協業として、アジャイル開発分野でのコンサルティングを手掛けるビーカインド・ラボ(Bekind Labs)との戦略的パートナーシップも発表された。日本企業の“内製化力”の底上げと、データドリブンなプロダクト開発・改善の自立自走を支援し、プロダクト開発文化の変革を実現するとしている。市場を育てることと併せて、現地企業の課題や事情に合わせた支援を重んじていることがうかがえる。
事業拡大の経過としては、花尾氏がカントリーマネージャーに就任した2年前と比較して、営業および支援体制としては350%の拡張率、パートナー戦略の面では300%のリセラー採用率、そして同社が重点業種として挙げている金融、流通・小売、製造、通信の領域では、100%のカバー率拡大を達成していることが報告された。ここまで述べた新たなアップデートや日本での取り組みも踏まえ、ここからどれほどの成長を成し遂げるかが注目される。
この記事は参考になりましたか?
- この記事の著者
-
名須川 楓太(編集部)(ナスカワ フウタ)
サイバーセキュリティ、AI、データ関連技術や、それらに関する国内外のルールメイキング動向を発信するほか、テクノロジーを活用した業務・ビジネスモデル変革に携わる方に向けた情報も追っています。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア
