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2025年春号(EnterpriseZine Press 2025 Spring)特集「デジタル変革に待ったなし、地銀の生存競争──2025年の崖を回避するためのトリガーは」

成果を生み出すためのSalesforce運用

なぜ多くのSalesforce導入は失敗するのか

DXとかAIとか言っているようでは無理〜Salesforceの基礎ぐらい知っておかないと #01

 Salesforceの導入現場では、理想と現実の間に大きなギャップが生まれている。AIエージェントによる新機能の登場など、期待が高まる一方で、多くの企業が直面している現実は厳しい。基本的な商談管理がうまく機能せず、見込客情報が混乱するなど、意外と初歩的な問題が次々と発生している。これらの問題は、単なる要件定義の不足では説明できない。本質的な課題として、「ビジョンと要件の乖離」「アジャイルの誤用」「定着・拡張・統合の課題」といった3つの壁がある。連載第1回の本稿では、これらの根本的な課題を詳しく分析し、実際の業務改革につながる具体的な解決策を提案する。

AIエージェントでも解決できない、Salesforce導入の課題とは?

 2025年春、Salesforceは自律型AIエージェント「Agentforce 2dx」の国内提供を開始しました。生成AI元年と騒がれた昨年からわずか1年、「AIエージェントが業務を自動化する」という華やかなフレーズが経営層の議論やベンダー各社との商談に上ります。しかし現場のSalesforceには、“ただのメール配信先リストとなった見込客情報の山”、“取引先の重複で架電間違いや請求ミスが起こる”──そんな素朴なトラブルが山積みです。最先端のプラットフォームを導入したはずの組織でも、基本的な商談管理プロセスを回すこともままならない、という状況は珍しくありません。

 「標準に寄せなかった」「要件定義が甘かった」こうした総括で語られるプロジェクト失敗事例は多くあります。しかし、真因に迫るにはIT業界一般論ではなく、構造的に具体へ踏み込む必要があります。Salesforce導入現場の特性を踏まえて、導入前・導入中・導入後課題の視点で記載していきます。

営業現場の「理想と現実のギャップ」はなぜ生まれるのか?

 ITサービスの導入を検討するユーザー企業からすると、目的が満たせれば手段はなんでもいいと考えるのは自然な話です。たとえば電子契約とか帳票出力とか、顧客企業の要求が明確な場合、ベンダーは他社と比較されやすくなります。そのため、ベンダー企業がこれを乗り越えて営業活動をしようとすると、単にツール売りをするのではなく、顧客ニーズの抽象度を上げて顧客企業自身が言語化できていない将来の課題までも合意し、独自の提案のフィールドを作り出す必要がでてきます。これがよく言われる「ビジョンセリング」という高度な営業手法です。

 ビジョンセリングとは、単なるモノ売り(プロダクトセリング)や、顧客の現状の課題解決(ソリューションセリング)だけでなく、将来のビジネスビジョンや成長戦略まで踏み込んで提案する手法です。

 Salesforceは、その名の通りSFA(営業支援システム)のためのCRM(顧客管理システム)をコア製品として持つ企業ですが、自身も高度な営業力を強みにしています。顧客に対しては単にツールを販売するベンダーとしてではなく、企業の変革ビジョンを合意し、そのためのプラットフォームを提供するという文脈でサブスクリプション型のライセンスを訴求し販売します。

 このように、Salesforce社は検討段階において、ユーザー企業側の現場部門やIT部門以上に、事業部門(LOB)や経営層へアプローチするため、ニーズ側へ大きく橋を架けてプロジェクトを作り出す特徴があります。これによって、提案時の文脈、合意した価値、その実現性とロードマップ、直近のプロジェクトの位置付け、検討プロセスで構築されたステークホルダーや関係性……など、通常のIT部門主導のツール導入と比べると、プロジェクト開始時点において統合するべき文脈(コンテキスト)情報が多いのがSalesforceプロジェクトの特徴です。

出典:著者 [画像クリックで拡大]

 Salesforce導入によって変革された業務によって期待されるROIなど、抽象度の高い文脈でビジネスの会話をしていたかと思えば、キックオフがはじまれば急にシステム要件定義という具体的でユーザー現場向けの会話がなされます。そのため、導入プロジェクトを担当するユーザー企業の推進担当者と、導入支援の実務を行うベンダー企業間のコミュニケーション難易度は非常に高いものになります。抽象的なニーズからシステムや業務に対する具体的なニーズへのブリッジ、経営視点のニーズを現場現業務視点のニーズと折り合いをつける橋渡しが求められます。

 Salesforceに限らず、大手企業のような手強い企業からも強く採用されるサービスには、何らか勝ちパターンとなっている検討プロセス上の特徴があるはずです。こうした検討段階・商談経緯からくるギャップを抑えず、導入決定後から切り取ったプロジェクトマネジメントばかり意識しても、ステークホルダーの利害を一致させたプロジェクトのQCD達成へ向けてドライブすることは難しいでしょう。

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偽アジャイルというプロジェクト進行の罠

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この記事の著者

佐伯 葉介(サエキヨウスケ)

株式会社ユークリッド代表。SCSK、フレクト、セールスフォース・ジャパンを経て、2019年にリゾルバを創業。2023年にミガロホールディングス(東証プライム)へ売却。著書『成果を生み出すためのSalesforce運用ガイド』(技術評論社)。一般社団法人BizOps協会エキスパート。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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https://enterprisezine.jp/article/detail/22065 2025/06/09 10:00

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