業界の常識を覆し続ける星野リゾート、次は「ホテル運営システム」を内製──現場出身者×エンジニアの融合

顧客接点を経験し、情シスに「スカウト」──実践知に期待

酒井真弓（以下、酒井）：佐藤さんは、1996年に星野リゾートに入社され、最初はフロントやレストランなど、ホテルの現場で働いていたんですね。

佐藤友紀子（以下、佐藤）：はい。当時はまだ軽井沢に2つのホテルしかなく、社員数も100人ほどでした。私はもともとホテルのコンシェルジュ志望だったんです。コンシェルジュデスクこそありませんでしたが、自然豊かな軽井沢という土地で、非日常を楽しんで、おくつろぎくださっているお客さまに、いかに喜んでいただけるか考えながら仕事をすることは、とてもやりがいのあるものでした。お客さまそれぞれのお声を聴き、向き合う接客や、ホテルでの滞在を総合的にアレンジするような仕事が本当に好きなんです。

酒井：その後も様々な部署を経験されたんですよね。

佐藤：社長室、広報・ゲストリレーション部門、予約センター立ち上げ、そして2006年頃に初めて情報システム部門に異動しました。（今でこそ星野リゾートの情報システムといえば内製化によって競争力を高めているが）当時社内にいたのは久本さんだけ、エンジニアもデザイナーも外部の協力会社の方でした。その後、東日本大震災後に情報システムを離れてマーケティング部門で温泉旅館を担当し、生産性最適化部門での開業サポートを経て、統合予約ユニットで8年間予約センター業務に携わりました。

酒井：統合予約ユニットではどんなお仕事を？

佐藤：国内外約70施設が対象で、新規予約や、ご予約済みの方からの問い合わせ、旅行代理店さま経由の予約管理など、多岐にわたる業務を担当していました。当時、お客さまからの問い合わせは主に電話とメールで、後にチャットも加わりました。

酒井：そこから再び情報システムに戻られたのが、2021年。

佐藤：統合予約ユニットで働く中で、レガシーシステムの限界を痛感していました。やりたいことはたくさんあるのに、各システムが分断されていて新機能の追加も難しく、これ以上の高度化・業務効率化が困難だったんです。そんなとき、自社でWeb予約システムを含むホテル運営システムを開発する計画が具体化し、「このプロジェクトに参画したい」と思い、情報システムグループへの再異動を決意しました。

　現在は、ホテル運営システムの中でも統合予約ユニットが利用する予約システムのプロダクトオーナーをしています。これまでできていたことの置き換えではなく、お客さまにより豊かな顧客体験を提供したい、そのためには予約担当スタッフの体験も重要だと考えており、統合予約メンバーの働き方を一新するようなプロダクトを目指しています。

酒井：ところで久本さんは、なぜ佐藤さんを情報システム部門にスカウトされたのですか？

久本英司（以下、久本）：友紀子さんは、ゲストリレーション部門時代からオンライン予約のスペシャリストで、メールで予約対応をする第一人者として活躍していました。そこで、2007年に新たなWeb予約システムを作ることになった際、友紀子さんの仕事ぶりをシステムに落とし込むことを基本コンセプトに、ヒアリングをさせてもらっていたんです。

酒井：それがいつの間にかチームの一員になっていたと？

久本：友紀子さんの豊富な業務知識と的確なフィードバック、そしてお客さまに向き合う姿勢が不可欠だったんです。それで途中から「情報システム部門に異動して一緒にやりませんか」とお願いしちゃいました。画面のイメージを一緒に作りながら、現場にとって使いやすいUIや文言に変更したり、裏側の在庫の持ち方や料金の持ち方に関しても深い議論をしたりしながら一緒に設計していきました。

酒井：業務のスペシャリストとシステムのスペシャリストのタッグですね。

佐藤：私もそれがすごく楽しかったんです。懐かしいなあ。