業界の常識を覆し続ける星野リゾート、次は「ホテル運営システム」を内製──現場出身者×エンジニアの融合
第35回:星野リゾート 情報システムグループ テクノロジー研究開発ユニット 佐藤友紀子さん
エンジニア×現場経験者の「相互尊重」で築く、内製チーム
酒井:内製開発チームを運営する上で、苦労されていること、工夫されていることはありますか?
佐藤:テクノロジー研究開発ユニットでは、専門的な知識と経験を有したエンジニアと、私のようなホテルの現場経験者が一緒に働いています。知識や経験は違いますが、「ユーザーのために良いものを届けたい」という思いは同じです。現場の経験があるからこそユーザーの思いにも寄り添えるし、エンジニアが傍にいることで、新しいアイデアやソリューションも提供できます。そこは私たちの組織の一番の強みだと思います。私自身が今最も大切にしているのは「相互尊重」。それぞれの経験を尊重しながら、ユーザーのために侃々諤々する文化を作りたいと思っています。
酒井:エンジニアの皆さんとのコミュニケーションで難しさを感じることはありますか?
佐藤:そうですね。私はプロダクト開発の素人でしたので、エンジニアメンバーのほうが苦労したんじゃないかなと思います。たとえば、スクラム開発の「小さく作ってリリースして、使いながら改善していく」というアプローチに最初は戸惑いもありました。現場のリアルが目に浮かぶから、ここまでの機能でリリースして業務が混乱しないかな、とか心配になりました。でも、自分たちで未知なる新しいものを作ろうとしているときに、誰も最初から完璧なものなんてわからない、だからユーザーに使ってもらいながら段階的に作り上げていくことが一番早いのだ、というのはその通りだなといつしか腑に落ちて。他にも、リリースサイクルや自動テストの進め方など、節目節目でいろんな議論がありますが、チームが強くなっていく通過点だなと。
酒井:組織開発にも取り組まれているそうですね。
久本:以前は「エンジニア」と「現場のプロダクトオーナー」といった二大勢力の争いのような雰囲気がありました。誰かがリーダーシップを発揮して方向性を決めてしまったほうが早いと思っていましたが、実際にはうまくいかなかった。
そこで発想を転換し、一人ひとりが違うことを認め、それぞれの思いを理解した上で、関係性を再構築することにしました。
酒井:トップダウンじゃダメなんですね。
久本:現代のシステム開発で、トップダウンは通用しないと実感しています。クラウド、DevOps、アジャイル開発などシステム開発自体が変わってきて、以前は50人で3年かけていたものが、今や5人で半年ほどで形になるほどのスピード感があります。
そんな時代に、「組織の目標ありきで個々人の仕事に落とす」というやり方はもう通用しない。各々の志向や達成したいことを大事にしたほうが、開発もチームもうまくいくように感じています。ビジョンさえ一致していれば、あとはそれぞれが自分のやり方で進めればいい。イノベーションを起こすには、そういう場を作る必要があると考えています。

エンジニアに妥協させない、「関係性システム」を模索
酒井:それをやるには、ファシリテーターが重要ではないですか? みんなが言いたいことを言って収拾がつかなくなってしまうのは本末転倒だと思うのですが。
久本:少し前まで、その状況でした(笑)。ここからは私の考えになりますが、以前はファシリテーションが大事だと思っていました。以前、チームが揉めた時も、その点をかなり指摘していたんです。
しかし、最近はファシリテーションの問題ではないと考えるようになりました。結局は、みんながそれぞれ相手を思いやればいいだけなんです。つまり、みんなでファシリテーションすればいい。
大暴れする人たちを抑えつけるというのは、結局どこかでその人たちの意見に蓋をしてしまっているだけだと思うんです。角が取れているように見えても、それは妥協に過ぎない。みんな価値観が違う中で、「あの価値観がもう少しうまく組み合わさればいいのに」とは思うのですが、妥協で組み合わされるのは違うんじゃないかと感じています。まさに、私たちに合った「関係性システム」を作っているところなんです。
佐藤:まだ道半ばですが、一人ひとりの考えをちゃんと表明できる環境によって、チームはもっと強くなれると信じています。
この記事は参考になりましたか?
- 関連リンク
- 酒井真弓の『Enterprise IT Women』訪問記連載記事一覧
-
- 業界の常識を覆し続ける星野リゾート、次は「ホテル運営システム」を内製──現場出身者×エンジ...
- 巨大・イオングループの30もの業務アプリを順次リプレイスへ 新体制に移行し「能動的なIT部...
- 「開発は一時、運用は一生」セイコーエプソンの運用集約に挑むITサポート部が開発段階から目を...
- この記事の著者
-
酒井 真弓(サカイ マユミ)
ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア