業界の常識を覆し続ける星野リゾート、次は「ホテル運営システム」を内製──現場出身者×エンジニアの融合
第35回:星野リゾート 情報システムグループ テクノロジー研究開発ユニット 佐藤友紀子さん
強い信念をもって実践してきた「おもてなし」をシステムで拡張
酒井:いろいろうかがってきたんですが、やはり久本さんが「ホテル運営システムに落とし込みたい」と思うほどの、佐藤さんの作る顧客体験がどういうものなのか知りたいです。お客さまと接する中で大事にしてきたことはどんなことだったのですか?
佐藤:お客さまのサインを見逃さないことです。メールの文面や電話での声から、どんな気持ちで問い合わせしてくださっているのか、本当に困っていることは何なのか、行間を読んで対応することを心がけてきました。お客さまを理解するために、得られる情報はすべて得たいと思っていますし、メールを書いてくださった時間や電話をかけてくださった時間すら、その方にとって価値ある時間になってほしいと思っています。
久本:友紀子さんは行間を読み取るというより、強い信念をもって行間を埋めているんです。メールや声だけでは分からないことがあれば、過去の履歴をすべて調べ上げ、追加で質問したりして情報を集めていました。返信するときは何度も口に出して推敲していましたね。その徹底ぶりは隣で見ていて怖いほどでした(笑)。真のプロフェッショナルだと思います。
佐藤:毎年クリスマスに来てくださるお客さまが、私宛にクリスマスカードをフロントに預けてくださることがありました。そういったお客さまの気持ちが、喜びやモチベーションになっています。ただ、これを一人でやっていてもスケールしません。お客さま一人ひとりへのきめ細かなサービスをシステムでサポートできるようにしたいですね。

酒井:素敵なエピソードですね。今後はそこにAIも活用していくのでしょうか?
久本:AIは全体の品質の底上げにかなり有効です。捻出できた時間で、スタッフの「魂」とも言えるホスピタリティをお客さまに届けられる。人が介在してこそ価値のある接客に注力するためにも、システム化できるところはしっかりと自動化していきたいです。
佐藤:「お客さまの旅の体験をもっと楽しくしたい」という星野リゾートのミッションにつながることは何でもやっていきたいですね。星野リゾートでは、顧客の旅の体験を「想像」「計画」「予約」「旅のアレンジ」「体験」「シェア」「回想」の7つのステージで定義しています。たとえば、同行者と一緒にオンラインで「旅のしおり」を作る計画ステージ、もっと気軽に予約ができる予約ステージ、滞在前や滞在中にアクティビティを追加するアレンジステージなど。こうした旅の全体を一気通貫でサポートできるシステムを作りたいと考えています。
事業会社の情報システム部門では、ビジネスや業務、組織カルチャーをよく知る存在が不可欠だと実感しています。現場を知るメンバーとエンジニアがともにシステムを作り上げていくことが、会社の新たな競争力にもなると信じています。そういう環境だからこそ成し遂げられる何かがあるはずなので、仲間とともに頑張っていきたいです。

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酒井 真弓(サカイ マユミ)
ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...
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