
2024年、IT業界の潮流を変える生成AIの実装が加速している。Kyndrylのグローバル・プラクティス・リーダー、アプリケーション データ&AI担当のニコラス・セッカキ氏は、企業のAI利用状況は業界によって大きく異なり、事例から得られる学びがあるという。本記事では、セッカキ氏が語る、生成AIのグローバルの利活用状況、AIガバナンスの国際比較、Kyndrylが取り組む3大クラウドベンダーとの提携による戦略的アプローチ、そして日本企業におけるAI活用の課題と解決策を紹介する。
生成AI導入に向け、PoC実施に着手
──はじめに、セッカキ様のこれまでのご経歴、および現在御社で取り組んでいることや役割を教えてください。
Kyndrylに入社する前は、CMA CGMという海運会社でCIOやチーフデータオフィサー、セキュリティ関連の業務を担当していました。また、IBMフランスのCEOとしての経験もあります。
Kyndrylはデジタル化を支援するインフラストラクチャーの提供で知られていますが、最近ではお客様からアプリケーションやインフラストラクチャーに関する多様な要望が寄せられています。そのため私は、SAPやオラクルへの対応を含め、アプリケーション構築に注力しています。データ&AI領域では、データ基盤の強化を支援しています。データ基盤を確立しなければ、生成AIがうまく機能しないからです。

──2023年は生成AI一色だったと言っても過言ではありません。2024年は生成AIを実装していく段階に入っていくと考えています。改めて、グローバルにおける企業の生成AIの利活用状況を教えてください。
2023年は生成AIが非常に注目されましたね。これは生成AIが持つ莫大な潜在力と、私たちの働き方や生産性に根本的な変化をもたらす可能性、アクセスできなかった知識へのアクセスを可能にすること、そしてクリエイティブな分野における顕著な影響によるものです。生成AIにより、以前は容易に作れなかったコンテンツが簡単に作成できるようになりました。
お客様のAIに対するニーズも変化しています。最初は「AIで何ができるのか」という興味から始まり、次の段階では「パイロットで試してみたい」「PoC(実証実験)を実施したい」となります。現在ボリュームが多いのは、PoCの実施段階です。ここでは適切なユースケースとビジネスモデルの検討が必要となります。
その一歩先を行く段階では、ツール導入や日常業務への応用に関する相談が増えてきました。さらに進んだお客様からは「生成AIをどうやって大規模に利用するか」「データをどのように整理すればいいか」といった、生成AIの効率的な使用に必要なデータの質や整理方法について相談されるようになっています。
──グローバルにおける先進的な利用事例を教えてください。
業界によって状況は異なりますが、特に広告制作企業では、生成AIを活用してプロジェクトを迅速に進められるようになっています。クライアントへの提案が早期に実現するため、生成AIを採用しなければむしろリスクが増大し、ビジネスモデルを再考する必要が出てきます。この変化は速く、他の業界よりも先行していると感じています。
これまでAIは、あらかじめ用意した回答を質問に紐付ける形で活用されてきました。最初はシンプルな使い方から始まり、チャットボットなどのナレッジ提供ツールへの進化が見られます。
たとえば、シンガポールの海運関連のお客様に提供したシステムでは、ERPやSAP、オラクルからの情報取得を生成AIによって自動化しました。これにより、手動でデータベースにアクセスして情報を調べる必要があった作業を合理化し、顧客体験が向上しました。
メインフレームなどレガシーシステムを扱う際には、不足しているドキュメントを生成AIで再作成する試みもあります。これはシステムのモダナイゼーションを進める上で大きな時間節約になります。他にもCOBOLで書かれたプログラムをJavaなどの言語に書き換える作業にも生成AIが活用されていますね。
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森 英信(モリ ヒデノブ)
就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務とWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業した。編集プロダクション業務では、日本語と英語でのテック関連事例や海外スタートアップのインタビュー、イベントレポートなどの企画・取材・執筆・...
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