手代木CEOが語ったSHIONOGIの組織・人材論
塩野義製薬では、2023年6月に刷新した中期経営計画「STS2030 Revision」の下、「新製品/新規事業拡大」「COVID-19治療薬の成長」「HIVビジネスのさらなる伸長」の3つを柱に据え、「新たなプラットフォームでヘルスケアの未来を創り出す」というビジョンの実現を目指している。
この計画を達成するには、様々な変革の取り組みが必要になる。「Session 2 組織・人材論」の最初に登壇した手代木功氏は、「デジタル、技術、データによるビジネス変革が重要と考えている」と述べ、「我々が提供する医薬品やヘルスケアサービスに新しい価値を生む変革」「限られた経営資源をより効率的に活用する変革」「データに基づく意思決定により変化に対して的確かつ機敏に適用する経営変革」の3つを進めているところと語った。
これらの変革の成否を左右するのがデータ活用であり、「組織」「人材」「データ基盤」の3つは、塩野義製薬のビジネス戦略の重要な要素として位置付けられている。この3つをテーマに、詳細な取り組み内容を解説したのが、北西由武氏の講演「仮説検証サイクルを実現するデータサイエンティストとデータエンジニアの挑戦」である。自身がリーダーを務める部署の名前の一部「データサイエンス」の仕事を北西氏は次のように説明する。
「サイエンスの基本は、観察をし、仮説を立て、実験をし、検証をし、意思決定をするプロセスをどれだけ忠実にできるかにある。データサイエンス部の仕事でも本当の意味でのサイエンスを実践するため、データ活用ではCRISP-DM(CRoss-Industry Standard Process for Data Mining)を参照し、日々の業務に活かすことに加えて、人材教育プログラムの根幹に据えている」(北西氏)。
CRISP-DMを構成するのは、「ビジネスの理解」「データの理解」「データの準備」「モデリング」「評価」「展開」の6つのプロセスであり、塩野義製薬がデータサイエンスと同様に重視するデータエンジニアリングでは、最初の2つが重要と考えている。
データ活用の誤解とデータエンジニアリングの重要性
ビジネス部門のデータサイエンスに関するよくある誤解が、「データサイエンティストにデータを渡せば、何かしらの結果が得られ、何かしらの知見を提供してくれるのではないか」というものだ。ビジネス部門としては、的確な意思決定を迅速に行いたい。しかし、実際にはデータ収集と蓄積に伴う問題が原因で、意思決定の手前の仮説を立案から考察までのプロセスが円滑に進まない。
その原因として、北西氏は「データの散在を始め、データをリアルタイムに更新していないこと、同じような帳票の存在、勘や経験に基づいたデータの提供」などの問題を挙げた。これらの問題を解決しながら解析を進めるには、意思決定に至るまでにどんな検討を行ったか、データの流れをたどり、今どこにいるのかを理解して進めていかなくてはならない。だからこそ、データエンジニアリングの役割が重要と北西氏は訴える。
塩野義製薬のデータエンジニアリングでは、データがコントロールされているものか否かに着目している。コントロールされたデータの代表例が臨床試験のデータである。計画的に収集するため、データの品質が高く、検証プロセスで使いやすい。一方、コントロールされていないデータの代表例がリアルワールドデータ(現実世界で収集されるデータ)だ。自動的に収集し、蓄積しているが、計画的な収集ではないため、検証に使うには不向きなこともある。そこで、仮説立案や相関ルールの立案で使うことが多くなる。とはいえ、「目的を明確にして収集し、品質管理をして収集すれば、リアルワールドデータもコントロールされたデータとして検証に使えるようになるかもしれない」と北西氏は語る。また、コントロールされたデータとコントロールされていないデータの中間的位置付けにあるシミュレーションデータの活用も進んできた。