AI時代のデータ活用はどこまでOK?個人情報保護委員会/デジタル庁の視点から学ぶ、企業が今すべきこと
「Data & AI Conference Trust2025」レポート Vol.1

デジタル経済の進展とAI技術の急速な発達により、世界各国でデータ活用が競争力の源泉となるなか、日本のデータ政策も大きな転換点を迎えている。2025年6月24日にAcompanyが主催したカンファレンス「Data & AI Conference Trust2025」では、個人情報保護委員会事務局 審議官の小川久仁子氏、デジタル庁 企画官の石井純一氏、Acompany 執行役員の竹之内隆夫氏が登壇し、データ活用と保護の両立について議論した。本稿では、個人情報保護法改正、DFFT(信頼性のある自由なデータ流通)の国際展開、データセキュリティ、プライバシー強化技術の内容を紹介する。
個人情報保護法における「同意規制のあり方」が見直しに、AI開発にどう影響する?
講演冒頭、個人情報保護委員会事務局 審議官の小川久仁子氏は、個人情報保護法見直しの動向について解説した。2003年に制定された同法は、時代の変化に合わせて何度も改正が重ねられており、現在では公的部門も含めて個人情報保護委員会が一元的に監視・監督を担う体制となっている。

現在検討されている見直しにおいて大きな論点となっているのは、個人の権利利益の侵害が想定されない統計作成等と整理できるAI開発などでの同意規制のあり方だ。検討の方向性としては、複数の事業者が持つデータを共有し横断的に解析するニーズの高まりや、AIの進展にともなう新たなデータ利用のあり方を踏まえ、AIの開発にも資する方向で議論が行われているようだ。
「個人情報保護委員会は、事務局ヒアリングにおいて重視すべきリスク・政策目的、実態を踏まえた規制の姿などに関する議論を行い、保護法益や本人の関与のあり方について実際にヒアリングした結果から得られた視点をまとめています。本人の関与のあり方については、本人に直接の影響がない場合は本人の関与を必ずしも担保する必要はないのではないかという意見が多かったです。特に、生成AIについては学習結果が(個人情報を含まない)パラメータとなることを念頭におきながら、『個人の権利利益への直接的な影響が想定されない個人データの利用』だとみなし、本人の関与は必要ないのではないか、とする指摘が大半でした。
こういった結果を踏まえ、個人の権利利益に直接の影響が想定されない統計作成、または統計作成等と整理できるAI開発などについて、それ“のみ”のために用いられることが担保されている場合には、それが確保されるガバナンスを前提とした上で、本人の同意がない場合でも個人データの第三者提供や公開されている要配慮個人情報の取得を可能としてはどうかという提案を2025年1月以降行っており、詳細の内容を3月に公表しています」(小川氏)
つまり、情報を統計作成等であると整理できるAIモデルの開発“のみ”に活用することを担保するための適切なガバナンス体制が確保されていれば、本人の同意なしで第三者からのデータ提供が可能という提案だ。また同様に、スクレイピングで収集したデータに要配慮個人情報が含まれていた場合にも、本人の同意なしに利用できるようにする提案がなされているという。
こうした方向性は、2025年5月に自由民主党が掲げた政策提言『デジタル・ニッポン2025』や、同年6月13日に閣議決定された『データ利活用制度の在り方に関する基本方針』などにも盛り込まれているという。「この部分については、いわば入口規制から出口規制への転換という側面もある。消費者からの信頼を確保し、適正なデータ利活用を中長期的に推進していく観点からも、今後は企業内における適切なガバナンス体制の構築を確保していくことが今まで以上に重要となるため、ぜひ官民で知恵を出しあって連携していきたい」と小川氏は強調した。

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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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