エッジコンピューティングの第一人者がFastlyと歩んできた十余年の技術進化、その先に描く未来とは?
CDNで創業するも、今や「エッジクラウドプラットフォーマー」に……AI時代でさらに高まる熱意と期待

CDN(コンテンツデリバリーネットワーク)のプロバイダーとして2011年に創業したFastlyは、当初から単なるキャッシュ配信にとどまらない「エッジコンピューティング」の実現を見据えていた。現在、同社のソリューションはCDN、WAF、コンピュートを統合した「エッジクラウドプラットフォーム」へと進化し、ユーザーがまるで自社インフラのように自由にサービスやアプリケーションを構築できる環境を提供している。Fastlyの創業メンバーであり、かつてはCTOとして、そして現在はテクニカルフェローとして同社のテクノロジーを牽引してきたタイラー・マクマレン氏が、インターネットの変遷とともに歩んできたFastlyの軌跡と、AI時代を迎えた今、エッジが果たす役割について話を伺った。
2010年代初頭、「インスタントパージ」から始まったエッジコンピューティングへの挑戦
時は2011年……高速で安全なコンテンツ配信を可能にする「CDN(コンテンツデリバリーネットワーク)」の技術を以てFastly(ファストリー)は創業された。当時の創業メンバーたちは元々、世界でTOP50に入るほどの大規模Webサイトを運営しており、その中で“共通の課題”に直面していた。
それは、当時のCDNでは画像や動画といった重要なアセットはキャッシュできたものの、ユーザーが生成する動的なコンテンツや、更新が頻繁なサイトコンテンツなどはキャッシュが難しかったという課題だ。「一度キャッシュされると、削除が困難になってしまう問題があった」と、創業メンバーの一人であるタイラー・マクマレン氏は振り返る。同氏はFastlyで14年間CTOを務めた後、現在はテクニカルフェローとして同社の技術を牽引している。

タイラー・マクマレン(Tyler McMullen)氏
この問題を解決するために、Fastlyが最初に取り組んだプロジェクトが「インスタントパージ(Instant Purge)」と呼ばれるものだ。キャッシュされたコンテンツをミリ秒単位で即座に削除可能にする機能のことで、これによりキャッシュの検証にかかる時間が大幅に短縮され、CDNでできることが大きく広がったのだという。
Fastly創業当時、CDNという技術に求められていたのは、シンプルに「速く、安定している」ことだった。現在のように、WAF(Web Application Firewall )やTLS(Transport Layer Security)などの高度なセキュリティ要件はさほど重要視されていなかった。しかしFastlyは、やがてインターネットが急速に拡大し、大きな変化を遂げることを予見しており、その変化に追随しながら技術提供していくことが必要になると感じていたようだ。
そのため同社は当初から、ユーザーに近い場所(エッジ)でデータ処理を行うことでレイテンシー(遅延)を削減し、パフォーマンスを向上させる技術である「エッジコンピューティング」の実現を目指すことになった。その達成には優れたCDNが不可欠だった。
エッジコンピューティングとは、1990年代半ばから起こったインターネットの普及により、Webサイトが世界中に拡大したことで注目されるようになった「分散コンピューティング」の一種ともいえる技術だ。この頃から、Webサイトは複数の大量のコンピューターによって展開されるようになり、それらを効果的に連携させるニーズが高まってきた。
当時のマクマレン氏にとって、多数のコンピューターが連動して実質的に一つのコンピューターのように機能する状態を実現することは、コンピューターサイエンスにおける最も興味深い課題だった。特に、エッジコンピューティングでそれを実現するのは難しい挑戦なのだという。インターネット企業のグローバル化にともない、コンピューティングやデータが世界中に分散して置かれるようになったことは、コンテンツだけでなくそのコンテンツに対する計算処理もユーザーの近くで行われることを意味するからだ。
そこから2010年代に入るとクラウドへの集中が興るが、その中でもエッジでの高速処理のニーズは揺るがなかった。Fastlyの創業はちょうどその時期と重なる。クラウドの台頭は、Fastlyが「何をエッジで処理すべきか」というターゲットを明確にするのに役立った。
たとえば、アプリケーション開発をModel(モデル)、View(ビュー)、Controller(コントローラー)の3つの役割に分割して進めるMVC(Model-View-Controller)の設計パターンでは、Modelはコアに、ViewやControllerはエッジに配置するのが主流となった。アプリケーション層ごとの分散が可能となったのもこの時期だ。
そして2015年頃に差し掛かると、AWS Lambdaなどの登場で日本でもFaaS(Function as a Service)やサーバーレスコンピューティングの概念が急速に浸透していくこととなる。この潮流の中でも、Fastlyの独自路線は揺らぐことはなかった。マクマレン氏は、当時を次のように振り返る。
「たしかにFaaSの登場は一つのターニングポイントだったかもしれませんが、Fastlyの戦略やプロダクトの見直しを迫るような出来事ではありませんでした。むしろ私は、当時の潮流をユーザーが『Fastlyが目指すモデルに慣れる良い機会』だと捉え、この技術に関するコミュニティ全体を後押しする変化だと考えていました」(マクマレン氏)
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