2025年10月に開催された、IVIシンポジウム2025-Autumnでは「DXのDはデータのD」とする西岡靖之氏と「自ら業務を自動化できる人材」の育成を説く佐々木一郎氏が登壇。DXの本質はシステム投資やツール導入ではなく、「データ」と「人」にあるという共通認識が示された。

DXのDは「デジタル」ではなく「データ」だ
第4次産業革命、DX、AI…… 製造業を取り巻くキーワードは次々と現れるが、成果は追いついていない。経済産業省やIPAの調査によれば、DXへの取組率は高いものの、ビジネスプロセス変革や製造業のサービス化といった「本来のDX」の効果は30%以下にとどまる。一方、業務効率化やデータのデジタル化といった「守りのDX」は相対的に成果を上げている。この逆説的な結果は何を意味するのか。
Industrial Value Chain Initiative(インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ、IVI)理事長の西岡靖之氏は、DXの本質的な誤解がここにあると指摘する。デジタル化を推進しても、自らの手で加工し価値に転換できるデータが手元になければ意味をなさない。コンピュータをあらかじめ設定した結果が出力として得られるという状態は、活用可能なデータが限定的であることの裏返しに過ぎない。
西岡氏は「DXのDはデータのDだ」と述べ、「デジタル化しても、それだけでは不十分。自らの手で加工して知識や収益に変換できるデータがどれほど手元にあるかが問われる」と指摘した。デジタル投資をしても成果が出ない企業が多い原因はここにあるという。
また西岡氏は、プログラムとデータの重要性を比較し、「昨今のサイバー攻撃を受けた企業の事例を見ても、プログラムは復旧可能だがデータの喪失は致命的である」と語り、企業にとって重要なのはシステムそのものではなく、システムに組み込まれたデータなのであるという認識を強調した。
ここで重要となるのが「マスターデータ」である。IoTで現場データを大量に収集してサーバを逼迫させても、それだけでは価値は生まれない。情報システムの世界では、データをマスターデータ、トランザクションデータ、そしてメタデータの3種類に分類する。日々発生する事象を示すのがトランザクションデータ、知識データとしてトランザクションデータから参照されるのがマスターデータ、そして、マスターデータはメタデータによって管理される。マスターデータはこの中で、企業が独自に生成し社内に蓄積された資産なのである。
西岡氏によれば、「製造業にはマスターデータが多数存在するが、それがなかなか企業の資産として機能していない。たとえば、E-BOM(設計が作った部品情報)とM-BOM(製造が作った部品情報)の連携に苦慮する企業も多い」という。さらに、近年注目されているのがBOP(Bill of Process)である。これは生産プロセス、つまり製品の作り方に関する情報で、企業ごとに異なり、同一企業内でも事業所ごと、担当者ごとに差異がある。その整備こそが喫緊の課題だと西岡氏は述べた。
さらに西岡氏は「設計と製造を連携させるために高額なPLMを導入しても社内に蓄積されたデータが活用できなければ実質的な効果を発揮しない」と警鐘を鳴らす。ベンダーが行うマスターデータの整備は最初に動かすところまで。システムを機能させるにはそうしたデータの整備や管理はすべて自社で取り組む必要があり、そこにどれだけ投資と人員を配置しているかが問われるという。
IVIは現在、PLMの主要ベンダーやMESベンダーと連携し、E-BOM、M-BOM、BOPの共通化プロジェクトを推進している。2026年1月にはドラフトが公開される予定である。新たなPLMは、知識データであるマスターデータを製造業が自身で管理し成長させ、それを可能とするシステムおよび共通基盤としてのメタデータを外部ベンダーが担う。
この取り組みは個別企業の技術課題にとどまらず、製造業全体のデータ基盤整備という産業政策的な意義を持っている。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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