「システムを導入したのに、誰も使わない」──この悩み、あなたの組織にもありませんか。実は、DXがうまくいかない原因の多くは技術ではなく、組織文化にあります。効率化を追求するほど部門間の壁が高くなり、データ共有が進まない。この矛盾を解く鍵は、最初に挑戦するファーストペンギンを支援し、それに続くセカンドペンギンを増やすことです。心理的安全性、ナレッジシェア、部門を越えた連携──小さな成功体験の積み重ねが、組織を変えていきます。
なぜシステムは導入されても使われないのか

「システムは導入したのに、誰も使わない」──これは、DX推進者が最も頻繁に直面する現実ではないでしょうか。
あなたの組織でも、こんな経験はありませんか。ITツールを導入したのに、現場は「以前のやり方の方が早い」と言って手を付けない。データ連携基盤を構築したのに、各部門は囲い込み、共有を拒む。技術的には問題なく動作するシステムが、組織の中で機能しないのです。
なぜこのような矛盾が生まれるのでしょうか。その背後には、重要な構造的問題が潜んでいます。一方的に与えられたシステムは、現場に受け入れられません。経営層やDX推進部門が「これを使え」と導入したツールに、現場は当事者意識を持てないのです。上から降ってきたシステムに対し、「やらされている」感覚だけが残ります。
ここで改めて考えてみましょう。DXの本質は技術導入ではなく、組織文化の変革です。デジタルトランスフォーメーションの「X(トランスフォーメーション)」とは、業務プロセスやビジネスモデルだけでなく、組織文化そのものの変革を含みます。組織文化が変わらなければ、他のどの変革も定着しません。
効率化の逆説──サイロ化を生む構造的矛盾
ここで、私の経験による気づきをお伝えしましょう。皮肉なことに、サイロ化の最大の原因は「効率化」なのです。
どういうことでしょうか。業務を効率化するために、私たちは専門化・分業化を進めます。営業は「受注件数」、製造は「生産効率」、経理は「処理速度」で評価されます。各部門が自部門の指標を最大化しようとする行動は、極めて合理的です。
しかし、この効率化の追求が、部門間の壁を生んでしまうのです。たとえば、営業が持つ顧客データと製造が持つ生産データを統合すれば、より精緻な需要予測が可能になります。ところが営業部門には「顧客データを共有する」インセンティブがありません。なぜなら、それは営業成績という評価指標に反映されないからです。製造部門も同様に、生産データの共有は生産効率を下げる「非効率な」行動と認識されます。
考えてみてください。部門を越えた協働、データ共有、知識の流通──DXが求めるこれらは、短期的には「非効率」に見えます。他部門にデータを渡す時間、フォーマットを統一する手間、説明するコスト。効率化を評価軸とする組織では、協働は「損な行動」として合理的に回避されてしまうのです。
さらに深刻なのは、この構造が組織のあらゆる階層で再生産されることです。部門内ではチームごとに最適化が進み、チーム間の壁ができます。個人レベルでは「これは私の仕事」と業務が細分化され、知識が属人化します。「あの人に聞かないとわからない」という状態が常態化し、ベテランの知識がブラックボックス化していきます。
知識を共有する時間は「非効率」と見なされ、「自分でやった方が早い」が常態化します。この論理が、ナレッジシェアを妨げ、デジタル化の前提となる「業務の可視化」を不可能にしてしまうのです。
組織、部門、チーム、個人──あらゆる階層で効率化を追求した結果、組織全体にサイロが林立します。
ここで誤解しないでいただきたいのは、効率化そのものを否定しているわけではないということです。問題は視点の違いにあります。短期的な視点では、部門ごとの効率化は正しい判断です。しかし中長期的な視点では、部門間の協働による全体最適こそが、組織の競争力を高めます。DXとは、短期の部分最適から、中長期の全体最適への転換なのです。この時間軸の転換を伴わない限り、サイロの壁は壊せません。
では、どうすればサイロの壁を壊せるのでしょうか。クロスファンクショナルな連携の仕組みが必要です。縦割りの評価制度に加えて、部門間の協働を評価する横の評価軸を設けるのです。部門横断プロジェクトへの参加、ナレッジシェアの実績、他部門への支援──こうした「横のつながり」を評価する構造的な転換なしに、サイロ化は解消しません。
組織文化がDXを拒絶する──もう一つの壁
効率化とサイロ化の矛盾に加えて、もう一つの文化的障壁が存在します。
あなたの組織では、新しいことに挑戦しやすい雰囲気がありますか。「失敗したら評価が下がる」という環境では、誰も新しい挑戦をしません。心理的安全性が確保されていない組織では、DXツールを試すことすらリスクと見なされてしまいます。前例主義が支配し、「やったことがないからできない」という思考停止が蔓延します。
さらに、指示命令型のマネジメントも変革を阻みます。経営層が「DXを進めろ」と号令をかけるだけでは、現場に「やらされ感」だけが残ります。現場の課題感と経営層の方針が接続されず、変革のエネルギーが空転してしまうのです。DXに必要なのは、現場の創意工夫を引き出すサーバントリーダーシップと、権限委譲された自律型組織なのです。
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熊本 耕作(クマモトコウサク)
公益財団法人九州先端科学技術研究所(ISIT)特別研究員。現場から経営戦略、組織開発、AI活用まで——部門と領域を越えて全体をデザインする"越境型DXアーキテクト"。
20年にわたり、現場に深く入り込みつつ全社を俯瞰して構造を再設計。製造・調達・物流のDXからAIによる人員配置最適化、生成AIの全社展...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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