「再び日本の製造業を強くしたい」。一念発起したYKK AP CIO 兼 CDOの深田しおりさんが描く青写真
第32回:YKK AP 上席執行役員 CIO 兼 CDO 深田しおりさん

このままでは日本の製造業はダメになる──そんな強い危機感から長年渡り歩いた外資系企業から一転、日本の伝統的な企業への転身を決意。YKK AP 執行役員 IT統括部長(当時)に就いた深田しおりさんは、着任早々、戦略なき複雑すぎるITの姿に衝撃を受けたという。課題山積の過渡期にあって深田さんの描くDXの青写真とは。基幹システムの刷新からデータ基盤の整備、スマートファクトリー、人材育成まで、その一部を覗いてみた。
外資から日系に転身して驚いた“負の遺産”
酒井真弓(以下、酒井):深田さんは、かなりダイナミックなキャリアを歩んでこられたんですよね。
深田しおり(以下、深田):私のキャリアは、製造業の日系企業で機械設計からスタートし、すぐにITの世界に入りました。その後の海外赴任では、日系企業のITのサポートを行っていました。日本に戻った後は、外資系企業でM&Aに携わりました。マネージャーを務めながら、いくつかの日系企業の会社分離やM&Aのプロジェクトを担当する中で、衝撃を受けたのが、日本を代表する企業が、いつの間にか海外企業に買収される側になっている。そのとき「このままでは日本の製造業はダメになる」と、強い危機感を抱きました。
そんなとき、YKK APから声がかかったのです。巡り合わせですね。私の経験を活かして「日本の製造業を再び強くできるかもしれない」。そう考えて入社を決意しました。
深田:いざ入社してみると、問題はITだけじゃないということが見えてきました。
酒井:それ、聞きたいです!
深田:まず、IT戦略というものが存在しなかった。YKK APだけではなく、かつて日本の製造業は「個社自立」という考えのもと各製造所に予算と権限を与え、競争させることで成長してきました。必然的に、製造所ごとにバラバラのシステムが構築されてきたんです。
これが今や“負の遺産”となって、全社的な標準化が進まず、データ基盤や業務プロセスの統一も難しい状況に陥っていました。まずは全社共通の標準モデルを作り、業務プロセスを見直して変革の土台を作る。そして、ERPなど新しいシステムの導入を進めていこうと考えました。
酒井:何から着手したのですか?
深田:最初に手を付けたのは、全社のコミュニケーションツールです。Notesから、より汎用性の高いGoogle Workspaceに移行し、運用負荷も下げました。また、デスクトップPCからノートPCへの切り替えも進め、どこでも働ける環境を整えていきました。
その最中、新型コロナウイルスが猛威を振るい始めました。実はIT統括部のオフィスビルの目の前に、あのダイヤモンド・プリンセス号が停泊していたんです。連日の報道をみて、いずれパンデミックになると直感しました。そうなれば、さらにノートPCが必要になる。会社の承認を待たず、すぐさまサプライヤーに電話して必要な台数を確保しました。既定の手順を踏んでいたら、とても間に合わなかったでしょう。
多くの日本企業は、こうした臨機応変な対応が苦手だと感じますね。外資系企業では、オプションB、オプションCを用意しておくのが当たり前です。この違いは、新型コロナ対応でもはっきり出たように思います。
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酒井 真弓(サカイ マユミ)
ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...
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