
富士通 柴崎辰彦による、国内のDXリーダーに、デジタル変革の考え方と実践事例を聞く本連載では、これまで、日清食品、香川大学、ANA、オムロン、カシオ計算機、JR東日本のDXリーダーにご登場いただいた。今回は、これまでの実践研究編記事の要点をまとめ、DX推進のポイントを考察する。
「DX(デジタル・トランスフォーメーション)をどのようにすすめればよいか」という悩みは、経営者のみならず企業内でDX推進に携わるすべての人々の共通のテーマだ。多くの日本企業では、既存事業を進めながらデジタルビジネスへの対応を迫られており、従来のやり方をデジタル化するだけでなく、新たなビジネスを創出することも求められている。DXの先進企業では、どのような工夫でDXを進めているかを考察する。
日清食品グループ:第一歩は「現場のデジタル化」から
今やDXを戦略に掲げない企業は皆無といっても過言ではない。しかし、一部の部門、例えばDX推進室や情報システム部にDXを任せておく黎明期は終わりつつある。全社的な取り組みにするためには、トップの理解とリーダーシップのもとで、すべての社員がDXへの取り組みを自分ゴト化してデジタルを駆使した仕事と働き方を取り入れなければならない。
日清食品グループでは、経営トップが「日清熱湯経営」というメッセージを発信し、生産性を200%にするためにデジタルを現場で使い倒すことを掲げデジタル変革をスタートしている。全社的な活動であるDXへの取り組みの第一歩が、現場のデジタル化からスタートしたことは特筆すべきだ。しかも、これまでは情報システムや外部のベンダーに依頼していたシステム化の作業を現場主導で内製化していることがユニークだ(日清食品グループCIO成田氏に聞く:ローコード開発による「内製化」の推進)。
「まず、ローコードツールを使ってシステム開発の内製化を進めてきたことで、今後の企業システムの方向性を先取りして取り組めたと考えています」(成田氏)
内製化は、業務部門が主導することで新たなIT部門の立ち位置やステークホルダーとの役割が見えてきた。推進体制のモデルとして業務部門とIT部門、複業人材(外部人材)、SIer(ITベンダー)という4つのロールだった。推進の主役は、業務部門が担い、業務要件を自分たちで整理した上でシステム開発を行い、さらにシステムを実際に使うユーザーに対して使い方の説明やマニュアルの作成、問い合わせの対応も業務部門で行う。これは、以前であればIT部門が主導する仕事だったが、今では業務部門自身がやる流れに変わってきている。これに対して相談に乗るIT部門の役割は重要だ。IT部門はローコードツールを提供し、システム開発で何か業務部門がわからないことがあればアドバイスをする。全社的にガバナンスのコントロールを効かせていくといった役割を担っている。
さらにユニークなのが外部リソースの活用だ。1つは、既にローコードツールをすでに利用しているユーザー企業の社員が複業人材として参加していること。もう1つが、内製化をきっかけにITベンダーに求めることが「システムの開発」ではなく、「ノウハウの提供」に大きく変わったという。

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柴崎 辰彦(シバサキタツヒコ)
香川大学客員教授 富士通株式会社にてネットワーク、マーケティング、システムエンジニア、コンサル等、様々な部門にて“社線変更”を経験。富士通で初めてのデジタル部門の創設やサービス開発に取り組む。CRMビジネスの経験を踏まえ、サービスサイエンスの研究と検証を実践中。コミュニケーション創発サイト「あしたの...
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