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富士通 柴崎辰彦の「一番わかりやすいDX講義」

オムロン竹林一氏に聞く: 「データの流れの時代」にビジネスチャンスがある

第23回【DX実践研究編】オムロンのデジタル変革に向けた挑戦【前編】 

 富士通で初めてのデジタル部門の創設やサービス開発に取り組んで来た著者の実践に基づくDX連載の第23回。著者は、富士通 デジタルビジネス推進室エグゼクティブディレクターの柴崎辰彦氏。シリーズの第3部となる「実践研究編」では、実際にデジタル変革に取り組む企業の取り組みをプロジェクトリーダーのインタビューを通してご紹介する。実践研究編5つ目の事例は、オムロン株式会社イノベーション推進本部の竹林一氏にお話をお伺いした。

オムロン株式会社イノベーション推進本部 竹林 一氏
オムロンに入社後、新規事業として鉄道カードシステム事業、モバイルサービス事業、電子マネー事業を立ち上げる。経営幹部として、オムロンソフトウエア株式会社(IT)、オムロン直方株式会社(OT)、ドコモ・ヘルスケア株式会社(データ活用)にて代表取締役社長を歴任。現在、オムロン株式会社イノベーション推進本部 シニアアドバイザー
一般社団法人 データ社会推進協議会理事/経団連 サプライチェーン委員会委員、DXタスクフォース委員会委員/京都大学経営管理大学院客員教授(京都ものづくりバレー構想の研究と推進)
著書『たった1人からはじめるイノベーション入門』日本実業出版社

目指すはエコシステムデザイナー

── 竹林さんはイノベーションの仕掛け人として知られています。最近では肩書きに「エコシステムデザイナー」と表記されていますね。最近注力されている活動について教えてください。

 エコシステムデザイナーという名称は個人で勝手に言っています(笑)。たぶんオムロンだけが勝つという時代ではなくなってきているので、市場自体のエコシステムを創らなければという思いからです。「風が吹けば桶屋が儲かる」といいますが、「風を吹かすところからやっていかなあかん」ということですね。

 オムロンに入って新規事業を立ち上げて子会社や合弁会社の経営もやってきました。何をやっていたかというと、誰もが社会を変えるアイデアを形にできる世界がやってくる、そのための仕組みづくりです。どんな仕組みが必要かというと、やはりデータを中心に据えたものです。オムロンでも新規事業としてデータ活用支援とか自立支援とか、DXをベースにしたデータ活用のビジネスを展開してきました。また、対外的には一般社団法人データ社会推進協議会の理事や経団連のサプライチェーン委員会やDXタスクフォース委員会の委員を担当しています。データを中心に「風が吹けば桶屋も儲かる」ようなビジネスが立ち上げられたらと考えています。

──3つの子会社や合弁会社での経営を経験されてきましたが、異なる分野での舵取りは大変だったのではないでしょうか

 もともとソフトウエアエンジニアだったのですが、最初にオムロンソフトウエアというIT会社の社長を任されました。次のオムロン直方は、生産会社だったので、OT(Operation Technology)における現場とか、データについて経験させてもらいました。次にドコモとの合弁会社であるドコモ・ヘルスケアを設立しました。そこでは、データに着目する中で、ITという仕組みとOTという現場とそこを介在するデータが実は三位一体で回っていることに気づかされました。

──現在のイノベーション推進本部とはどのような組織でしょうか?

 現在所属するイノベーション推進本部は、社長直下の組織で新規事業を創出することがミッションですが、実はこの3年間は、「オムロンの中でイノベーションを起こし続ける仕組みを作る」ことに注力してきました。それはイノベーションや新規事業を起こすプロセスや人材育成であり、そこで活用するITがあればDXの検討もやるということです。既存の事業では現業に追われてなかなかできないので既存の事業部門からも人材育成も兼ねて、人に来ていただいている複合組織です。[※1]

[※1]オムロンのイノベーション活動紹介サイト

──京都大学の経営管理大学院で客員教授も務められていますが、そこで取り組まれている京都モノづくりバレー構想とはどのような取り組みでしょうか?

 京都モノづくりバレー構想は、京大の寄付講座です。京セラや堀場製作所、オムロンなどユニークな会社が京都から沢山生まれたのですがもう60年、70年も前に創業された会社ばかり。だからその次の新しいベンチャーを京都からどう生み出すのかについて京都大学で研究と実践をさせていただいています。

──なるほど、確かに京都で生まれた企業にはベンチャー気質のある会社ばかりですね。

 その中で僕が担当させていただいているのが「100年続くベンチャーが生まれ育つ都を作る」という壮大な取り組みです。100年続くというのは事業継承も込みなんです。100年続く企業を作るにはどうしたらよいか?まさに最近はやりのパーパス経営も参考になります。

──歴史のある京都には学ぶべき先人たちの取り組みも多いように感じます。

 先日、1022年も続く、あぶり餅屋さんの一文字和輔さんにお話を聞きに行って来ました。そしたら「千年続く商いにはぶれない軸がある」と仰るんですね。西陣織で300年以上続いてレクサスと内装もコラボした細尾さんの12代目は、「織物で大切なのはぶれない縦糸があることだ」と仰います。ぶれない縦糸がないと横糸が入れられないということなのですね。ぶれない縦糸がないと横糸のアライアンスなんかできないと言うんですよ。横糸は時代とともに変化していいと(例えば自動車メーカーとのコラボレーションも)。縦糸が、ぶれないパーパス経営だとすると、横糸はまさにトランスフォーメーションですよね。時代とともに事業の軸を変えていかなければならないと感じてますので、阪大の先生とも連携してリフレーミング思考という考え方を広めていこうと思っています。

──講座を通した狙いはどのようなものでしょうか。

 私の講座は社会人も聞けるオープン講座なのですが、その中で教育体系も作っていこうと考えています。昔、洗剤とかで「混ぜるな危険!」というのがありましたが、ビジネスでは逆に「軸」をもとにいろいろと「混ぜないと危険!」だと思っています(笑)。

──最近、イノベーションに関する本も出されましたが、タイトルにDXはつけられていませんね。

 何をどうすれば動き出すのかがポイントだと考えています。DXも実は一緒で現場に行けば行くほど何をすれば良いのかわからない。そんな中で大切なのは会社や組織の中で「共通言語化」だと思っています。

 ただバズワードで動いていくのではなく、その会社にとって「イノベーションとは何ですか」「トランスフォーメーションとは何をすることですか」ときちんと問いかけ、共通言語にすることです。ただ「DXやれ!トランスフォーメーションしろ!」と言うだけでは、しばらくすればDXという言葉も無くなる頃には、「昔はユビキタスって言ってたじゃん」「M2Mって言ってましたね」「サイバーフィジカルシステムもありました」と同じになってしまう。IoT、オープンイノベーションが流行って、いつの間にかデジタルトランスフォーメーションという言葉になっただけでは何も変わらない。本質は、会社や組織の中で「共通言語化」することだと思っています。

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流れのある所にビジネスチャンスがある

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この記事の著者

柴崎 辰彦(シバサキタツヒコ)

香川大学客員教授 富士通株式会社にてネットワーク、マーケティング、システムエンジニア、コンサル等、様々な部門にて“社線変更”を経験。富士通で初めてのデジタル部門の創設やサービス開発に取り組む。CRMビジネスの経験を踏まえ、サービスサイエンスの研究と検証を実践中。コミュニケーション創発サイト「あしたの...

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