トップ写真:富士通 柴崎辰彦氏
筆者が富士通のSE変革から「デジタル変革(DX)」へシフトしてから既に8年以上が経過している。これまでDXについては、経済産業省の提言で「2025年の崖」と揶揄され、経営の神様ピーター・ドラッカーの名言「Change or Die」をもじって「Digital or Die」と表現されるなど、様々な表現がなされてきた。言葉遊びはさておき、「デジタル変革」とは一体何を指すのであろうか? 今回はこれまでの連載を踏まえその本質について考察する。
DXはなぜうまく進んでいないのか?
DXの重要性に対する認識は高まっているが、成果が出ているとはいえない。最初にその実態をデータから確認してみたいと思う。毎年秋に国内でのITの動向を分析し提言しているアイ・ティ・アール(ITR)のイベント「IT TREND2022」では、会長の内山悟志氏が、同社の調査結果をもとに「デジタル変革(DX)」の実態をあらわにした。
ITRの「IT投資動向調査2022」によると「デジタル技術を活用した業務やビジネスの変革(DX)に対して、あなたの考えに最も近いものはどれですか?」という問いに対して約8割以上が重要だと考えており、DXの重要性に対する認識は高まっていることがわかる。
しかし、その一方で調査した様々なDX施策の中で「進行中・完了しており成果もでている」と回答したDXテーマはすべての項目において2割以下という結果となった。これは、「従業員エンパワメント」「顧客エンゲージメント」「オペレーションの最適化」「製品・サービスの競争力向上」といった4つのカテゴリでの成果を調査したものであるが、最も高いものでワークスタイルの変革(従業員エンパワメント)であり19%に留まっている。これは、コロナ禍の中で在宅勤務やテレワークを進めざるを得ないという環境的要因も大きい。
一方でDXを推進する環境の整備もままならない。同じく、ITRが2019年6月から定点観測している「DX環境整備総合成熟度」においても調査を開始した2019年と様相は大きく変わっていない。この成熟度調査では、意識・組織・人材・制度・権限についてレベル0(未着手)からレベル1(初期)、レベル2(発展途上)、レベル3(部分的整備)、レベル4(浸透)、レベル5(定着)の5段階で測定しているが過去4か年の調査結果
は、いずれもレベル1~レベル3、即ち「部分的整備」に留まっている企業が全体の7割に達するという。
内山氏は、これらの調査結果を踏まえ、DX推進における障壁が現在もいくつも存在していると指摘しているが、筆者は「DXに対する正しい理解と実践」を壁の一つに加えたい。