トップ写真:日清食品ホールディングス株式会社 執行役員・CIO(グループ情報責任者) 成田敏博氏/富士通 柴崎辰彦氏
「デジタル変革(DX)をどこから進めるのか」という問いに対して、デジタルビジネスの黎明期の5,6年前なら新規ビジネスを想定するケースが多かった。「両利きの経営」でいうところの新規ビジネスの「探索」だ。その一方、最近では、既存のビジネスの「深化」を目的に従来の現場業務をデジタル化によって効率化し、余力を生み出すことにより付加価値のある業務を推進することを狙うケースが増えた。特にコロナ禍の影響で従来の仕事の進め方では立ち行かなくなるケースも多く、現場業務のデジタル化支援は企業にとって急務となっている。
「付加価値化加速」でぬるま湯を沸騰させる
日清食品グループでは、中長期における成長戦略のテーマとして、1)既存事業のキャッシュ創出力強化、2)EARTH FOODCHALLENGE 2030(有限資源の有効活用と気候変動インパクト軽減へのチャレンジ)、3)新規事業の推進(フードサイエンスとの共創)の3つを掲げている。そして「NISSIN Business X formation(NBX)」というを全社活動の中で、純粋なデジタル化に留まらないビジネスモデル自体の変革を目指している。
この全社活動テーマの実行について情報システムを統括するCIOの成田敏博氏にお話をお伺いした。成田氏は、DeNAやメリカリを経て日清食品グループに2年半前に入社し、同社のデジタル変革を牽引して来た。
日清食品グループでは、経営トップが「日清熱湯経営」というメッセージで社内に檄を飛ばしている。「ぬるま湯を沸騰させる」という意味合いで、「生産性を200%にしよう。その為にデジタルを使い倒そう」というものだ。成田氏の同社でのデジタル変革はまさに現場部門でデジタルを使い倒すことからスタートした。
「まず、ローコードツールを使ってシステム開発の内製化を進めてきたことで、今後の企業システムの方向性を先取りして取り組めたと考えています」(成田氏)
日清食品グループがローコード開発に取り組んだ理由
日清食品グループはいわば『非IT企業』なので、プログラミングができる人間が限られている。そうした条件でもシステム開発の内製化が可能になった理由は、ローコードツールの採用にある。サイボウズのkintoneやマイクロソフトのPowerAppsといったツールを、内製化のための強力な武器として活用した。
「日清食品に入社した時、既にペーパーレス化が進んでいましたが、決裁書や申請書、業務連絡書など、依然として様々な業務の中に紙が残っており、コロナ禍における全社在宅勤務体制への移行の足かせとなっていました」(成田氏)
ローコード開発ツールの選定にあたって、1)レスポンスを含めたユーザビリティの高さ、2)モバイル利用への適正、3)クラウドネイティブであること、4)オープンAPIによる他システムとの連携・拡張性、5)自社メンバーのみでのシステム開発ができることなどを重視した。実際に利用しているユーザー企業21社をヒアリングし、6システムに絞った上で、実際にこれらのシステムの幾つかについては、自分たちで実際にプロトタイプを作り、ローコード開発ツールを選定した。
成田氏が入社する前からいくつかのツールは利用されていたものの、使い勝手が悪く現場では不評だった。当時は、現場開発が出来ず外注に頼るため、何をやるにも数百万の費用、数ヶ月の期間がかかることから、容易に改修や拡張が出来ない状況が続いた。
そこで、従来のやり方を一新する意味で選定したのが、kintoneだった。導入にあたりシステム選定を1ヶ月半で行い、2020年の4月にパイロット導入して初回稼働させた。これが成功裏に進んだことからIT部門だけでなく、他の現場に対しても展開を進めることになる。1年かけて全社展開をして、今は利用拡張をしている段階だ。導入したのは、グループ内の最大企業である日清食品の社内の決裁システムからだった。
「現場のメンバーはもちろん、最上位の役員まで利用するサービスだったので、社内でのkintoneの認知度が一気に上がりました」(成田氏)
それ以降、以前は紙やExcelを使用していた総務や経理、人事、法務、製品開発などの部門もkintoneを導入。初めはIT部門が開発を支援していたが、次第に現場の人間が自分たちで手を動かすようになったという。現在では各部門にそれぞれ数名システム開発ができる人材がいて、現場主導で進めている。IT部門は、随時必要に応じてサポートをしている。kintoneによる現場開発は、申請業務やExcelデータ管理業務の領域でペーパーレス化やハンコレス化を推進し、大きな定量効果がみられた。