ドライバーの拘束時間が増える原因
──「物流の2024年問題」への注目が集まります。これは日本社会全体の構造に起因する問題ではないかと思うのですが、実際はどうでしょうか。
労働時間の上限規制への対応が問題視されていること自体、残念な状況にあります。法律が有効になるのは2024年4月からですが、問題は以前から指摘されていたことです。労働時間の内訳を知るため、私たちがトラックドライバーの拘束時間を分析したところ、荷役・付帯作業、荷待ちの待機、その他の準備の時間を合わせると、運転業務以外が35%を占めていることが判明しました。例えば、一般消費者が家電量販店で冷蔵庫を買ったとしましょう。大型家電の場合、買い物は届けてもらって終わりではなく、肉体的負担の大きい設置作業や段ボールの処分のような付帯作業を伴います。このような作業が積み重なり、ドライバーの労働時間は増えていくのです。物流は産業の血管にも喩えられる大事な産業であるにもかかわらず、平均年収は500万円程度。労働者人口の減少に伴い、このままでは労働力を確保できなくなる危険な状況にあります。
──EC需要の増大がドライバーに負担をかけていることは容易に想像できますが、荷主がB2Bの製造業ではどんな状況でしょうか。
ジャストインタイム方式で生産を行うには、朝9時の生産開始に間に合うように全ての材料が揃っていなくてはなりません。ところが、朝の始業開始前は、通勤ラッシュで工場近辺道路に渋滞が発生する時間帯でもあります。これを避けようと、ドライバーは早めに納品しようとするのですが、門が閉まっていて入れてもらえない。ですから受け入れの時間までの待機時間が発生するわけです。朝、工業団地の近くにトラックがたくさん止まっているのは、こうした事情があるからなんです。そもそも生鮮食品のように足の早いものでなければ、前日の夕方の納品で済む話なのですが、交渉しても受け付けてもらえない。場合によっては、10分単位で納品する契約で、遅れると罰金を払わなくてはならない。荷主の都合で受け取りが遅れることがしばしばあるにも関わらず、運ぶ側が大きなリスクを負う構造になっているのです。
──その待機時間は、時間外手当の対象になりますか。タクシーのような人間の輸送の場合は、待機時間も運賃に含まれますよね。
ドライバーは手当をもらえるのですが、会社にとっては損失です。日本の物流業界の場合、多重請負構造となっていて、大手の元請を除くと、ほとんどが保有トラック10台未満の小規模事業者です。この中には倉庫を持たず、トラックだけを保有している事業者も含まれます。荷主は大手の元請けの会社と契約しますが、その下には2次請け、3次請けと数多くの小さい事業者が連なる。場合によっては再委託先の末端が個人事業主のこともあるでしょうし、間に入る会社が多いほど、末端のドライバーが得る報酬は少なくなります。こんな状況に嫌気がさして、トラックドライバーからタクシードライバーになる人もいるぐらいです。