脆弱性満載のVPN、ずさんなパスにF/WなしでPC接続──近年ゼロトラストが必要になった切実な事情
【徳丸浩が斬る、セキュリティのイマ:第5回】なんで「ゼロトラスト」をいれなければいけないの?

多くの日本企業でセキュリティ被害が増えている昨今、企業や組織はどう対応していくべきなのか。イー・ガーディアングループCISO 兼 EGセキュアソリューションズ取締役CTOである徳丸浩氏が、日本の「セキュリティのイマ」をわかりやすく徹底解説する連載企画第5弾。今回のテーマは「脆弱性満載のVPN、ずさんなパスにF/WなしでPC接続──近年ゼロトラストが必要になった切実な事情」です。日本のセキュリティ対策で、もはやトレンドどころか常識となりつつあるゼロトラスト。しかし、その要点を知っているようで知らない人は数多くいると徳丸氏は指摘します。今回はその「ゼロトラスト」の意義と押さえるべき重要なポイントを詳しく解説します。
そもそもゼロトラストとは

はい、前回は境界防御をメインにお話しさせていただきましたが、今回は「ゼロトラストとはなんぞや」というお話ができればと思います。
ゼロトラストセキュリティモデル、ゼロトラストアーキテクチャは、先端的な研究者による造語、あるいはGoogleなどが最初に言い出し、取り組まれはじめたものです。
ゼロトラストの考え方を一言で言うと「もう境界防御といった、彼我の境はないものと思え」みたいな感じですね。たとえば、極論を言うと「インターネット上にサーバーと端末があったとしても、その認証も脆弱性対策も完璧であれば、侵入はされないし悪用もされることはない」と一般的には思われがちです。
しかしそれだけですと、以前にも言及したゼロデイの脆弱性や標的型攻撃メールといった、スクリプトの入った添付ファイルをうっかり開いてしまう人を狙った攻撃には対応できません。
ですので「IDパスワードだけでは不十分なので、強固な認証手段を使いましょう」とか、「脆弱性対策はきちんとしろ」だとか、「メールなどに添付された危険なファイルは、必ず十分な検知をしろ」とかいったりするのはそれが背景です。端的に説明すると、これがゼロトラストという考え方であり、重要なものの概要になります。
そして、このゼロトラストが今のビジネス情勢に実にハマりやすいものなんですね。
どういうことなのか。まずコロナの影響でリモートワークが増え、外で仕事をすることも増えました。そして、リモートでよく使われるVPNというものは、仮想的に社内ネットワークを自宅まで延長するような感じのものです。
しかしその肝心のVPN装置に脆弱性が多いとか、場合によってはVPN装置を使わずファイアウォールなしで直接パソコンにつなぐなど、ちょっと私の感覚からは信じられないような使い方をされた事例が、現実には数多くある。ですので「境界防御だと、ちょっと色々不自由だよね」という状況がまず存在します。
またコロナの影響もありますが、近年多くの企業でクラウド利用が増えました。これは主にSaaSですね。

様々な業務アプリケーションを自社で作る、あるいは用意するのではなくサーバー上のクラウドで提供されたものを使うというものです。となると、クラウドは境界の外にあるわけですから「企業システムが境界の中にない」ということになるわけですね。そうすると境界防御では守れないわけです。
この記事は参考になりましたか?
- この記事の著者
-
徳丸浩(トクマル ヒロシ)
イー・ガーディアングループCISO 兼 EGセキュアソリューションズ取締役CTO。ウェブアプリケーションセキュリティの第一人者。 脆弱性診断やコンサルティング業務のかたわら、ブログや勉強会などを通じてセキュリティの啓蒙活動を行う。 徳丸氏がCTOを務めるEGセキュアソリューションズは、セキュリティの知識を問う 「ウェブ・セキュリティ試験」の監修を務める。著書「体系的に学ぶ 安全なWebアプリケーションの作り方 第2版」は、...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア