企業のAI活用がPoCにとどまるケースも多い中、IBMは米国・ボストンで開催した年次カンファレンス「Think 2026」にて、AIをシステムの中核に据える「AIオペレーティングモデル(AI Operating Model)」構想を発表した。2026年3月には「Confluent」を買収完了するなど、着実にAI時代のポートフォリオを拡充する同社のねらいとは。
IBMの新たな背骨となる「AI Operating Model」とは
2026年5月4日から4日間にわたり米国・ボストンで開催されたIBMの年次カンファレンス「Think 2026」には、約5,000名(日本からは250名超のユーザーとパートナー)の参加者が詰めかけた。
今回のカンファレンスで核となったのは、「AI」「ハイブリッドクラウド」「量子コンピューティング」の3つだ。これらはIBMが訴えつづけてきた技術要素だが、Think 2026では「いかに早く、セキュアな形でビジネスに寄与できるか」という観点での講演が多く、既に同社とタッグを組むことでAIファースト企業としての立ち位置を確立せんとするユーザー企業の登壇も目立った。もはや、AIで何ができるのかを誇示するフェーズは終わり、いかにエンタープライズの大規模かつ複雑なITインフラに実装して成果を上げられるのかという、現実的な議論へと完全に移行している。
基調講演では、S&P500企業のうち“AIネイティブ企業”が約5~6倍の利益成長率を記録しているというデータが提示されると、IBMの会長兼CEOであるアービンド・クリシュナ氏は、「先行企業は、単に多くのAIを導入しているわけではなく、ビジネスそのものをAIで変えようとしている」と警鐘を鳴らした。
多くの大手企業がAI活用を進めているが、その実態は現場部門での局所的なPoC、日常業務の補助にとどまっているケースが少なくない。当然ながら企業がAIを全社活用できないのは、AIの性能が限界を迎えているわけではなく、既存のITインフラと業務プロセスが抱える“複雑性”という課題に直面しているからだ。IBM Software担当SVPのディネシュ・ニーマル氏は、今後5年間で新たなアプリケーションは10億個、AIエージェントは20億体規模にまで膨れ上がると予測し、AI時代ならではの課題を解決する必要性を訴えた。
「人間が1回アクセスする間に、マシンによるアクセスが120回も発生するようになる。そうした状況下では、どのように特権アクセスを管理すればよいのか。アイデンティティ・アクセス管理(IAM)の戦略をどう見直すべきかも考えなければならない」(ニーマル氏)
無数のAIエージェントが複数のシステムから自律的にデータを取得し、タスクを実行するようになれば、既存のアクセス制御やインフラ管理プロセスは少しずつ破綻していく。また、日本企業で加速するITモダナイゼーションにも壁が立ちはだかっている。日本IBM 取締役副社長執行役員の村田将輝氏は、メインフレームのレガシーコードをAIで書き換えるだけでは、本質的な解決には至らないと言及した。
同社 常務執行役員 コンサルティング事業本部 成長戦略統括事業部担当 川上結子氏
「ITモダナイゼーションのプロジェクトで一番難しいことは、COBOLという言語だけの問題ではない点だ。IMSやCICSといったミドルウェアなどをはじめ、インフラ基盤全体にわたるパフォーマンスを考慮しなければならない」(村田氏)
増加するマシンアクセス、蓄積された技術的負債によるITインフラの複雑性……これらを統合的に制御し、企業をAIファーストへと導くための新しいアーキテクチャとして、IBMがThink 2026で提示したのが「AIオペレーティングモデル(AI Operating Model)」である。これはミッションクリティカルシステムを支えるインフラと同様の要件を満たしながら、ガバナンスが効いたAI駆動型のシステムを管理する、新たな運用基盤のフレームワークだ。
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岡本 拓也(編集部)(オカモト タクヤ)
1993年福岡県生まれ。京都外国語大学イタリア語学科卒業。ニュースサイトの編集、システム開発、ライターなどを経験し、2020年株式会社翔泳社に入社。ITリーダー向け専門メディア『EnterpriseZine』の編集・企画・運営に携わる。2023年4月、EnterpriseZine編集長就任。
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