「AIオペレーティングモデル」とは何か? IBM Bob、Sovereign Core、IBM Data Gate for Confluentなど、新たなアップデートで陣容固める
Think 2026では、多くの機能アップデートが発表された。一見すると散発的なローンチにも受け取られるが、これらは単なる寄せ集めのような機能追加ではないようだ。先述したAIオペレーティングモデルという、IBMが描くAI時代のアーキテクチャは「インテリジェンス」「アクション」「オペレーション」「トラスト」という4つの要素から構成されており、これらを支える機能群として連動していく形だ。
第1の柱「インテリジェンス」:買収したConfluent、培ってきたDb2などを活かす
無数のAIエージェントが適切に意思決定するためには、常に最新のシステム状況やデータ、コンテクスト(文脈)が必要となる。IBMが買収したConfluentの共同創設者兼CEOであるジェイ・クレプス氏は、「従来的なバッチ処理は、デジタルビジネスが常にデータを生成している時代において1960年代の遺物のようだ」とリアルタイムデータの重要性について語った。
今回IBMは、メインフレーム(Db2 for z/OS)のデータをバッチ処理なしにリアルタイムのイベントストリームに変換する「IBM Data Gate for Confluent」を発表した。さらに、非構造化データである文書ファイルをAIが読み取りやすい構造化データに変換する「Docling for IBM watsonx」、OpenSearchによるハイブリッド検索やLangChainのローコードプラットフォームであるLangflowなどを統合した「OpenRAG on watsonx.data」を発表し、サイロ化した社内ナレッジをAIで活用するための仕組みが整えられた。
第2の柱「アクション」:IBM Bobを中核に据えた、AIエージェントの活用
リアルタイムデータを利用できるようになれば、次はそのデータを用いてタスクを実行するためのAIエージェントの開発・運用が必要となる。2026年3月から日本でも提供されているエンタープライズ向けのAIコーディング・エージェント「IBM Bob」について、クライアントゼロとして同製品を利用しているIBMで開発マネージャーを務めるサミーヤ・カシフ氏は、「IBM Bobは単なるコードライターではない。計画からテスト、セキュリティとコンプライアンス、デバッグ、ドキュメント作成まで実行してくれる」と話す。実際にIBM Bobを導入したことで開発チームのオンボーディングに必要な時間を70%短縮し、機能実装にかかる工数も40%短縮するなど、開発速度が約3倍になったと導入効果を強調した。
また、IBM Bobなどで開発されたAIエージェントを一元管理するため、「watsonx Orchestrate」は次世代のコントロールプレーンとして、「IBM DataPower Interact Gateway」もAIゲートウェイとしての機能強化が発表された。既存のアーキテクチャを再構築することなく、AIトラフィックを安全に保護できるとする。
第3の柱「オペレーション」:AIOpsの実装を後押し
あらゆる場所でAIエージェントが活用されるようになれば、ITインフラ運用の自律化、すなわち「AIOps」への取り組みは不可避である。複雑化するITインフラをナレッジグラフとして可視化するため、昨年発表されたProject infragraph構想を具現化した「HCP Terraform powered by Infragraph」のパブリックプレビュー提供がアナウンスされた。同ソリューションを用いることで、ハイブリッドクラウド環境全体にわたり統合管理できるようになった「IBM Concert Platform」がナレッジグラフに基づいた情報からコンテクストを理解し、脆弱性を修正するためのパッチや自動修復プロセスを生成・実行する。
また、インフラコストが高騰する現況にも対応するため、NVIDIAと連携した「watsonx.dataのGPUアクセラレーション機能」のプライベート・テクニカルプレビューが発表された。watsonx.dataのPresto C++エンジンにおける結合・集計・フィルタリングといった計算負荷の高いクエリ操作について、CPUからGPUによる並列処理へと移行するための技術。既にIBM社内における検証では、NVIDIA A100 GPUインフラ上でクエリ処理を最大25倍高速化でき、約80%のコスト削減が確認できたとする。
第4の柱「トラスト」:ハイブリッドクラウド環境化の“デジタル主権”を担保
AIがビジネスの中核へと入っていくにつれて、特定のベンダーへの過度な依存、処理プロセスなどのブラックボックス化は致命的なリスクとなる。地政学リスクも高まる状況下、「IBM Sovereign Core」を一般提供することが発表された。IBM Softwareのプリヤ・スリニバサン氏は、「ITインフラのコントロールを顧客の手に取り戻し、コンプライアンスなどを維持したまま、任意のツールを用いてAIを稼働するための基盤となる」と話す。IBM Sovereign Coreは、AIモデルの実行環境、データのアクセス権限や暗号鍵の管理などをユーザー自身のハードウェア環境下でコントロールするための環境となる。
EU AI ActやGDPRをはじめ、日本におけるISMAPや個人情報保護法など、各国の規制に対応するためのフレームワークを標準搭載。継続的な監視と監査証拠の自動生成機能などを備えており、Red Hat OpenShiftなどをベースとしているため、サードパーティ製のAIモデルなどにも対応している。
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岡本 拓也(編集部)(オカモト タクヤ)
1993年福岡県生まれ。京都外国語大学イタリア語学科卒業。ニュースサイトの編集、システム開発、ライターなどを経験し、2020年株式会社翔泳社に入社。ITリーダー向け専門メディア『EnterpriseZine』の編集・企画・運営に携わる。2023年4月、EnterpriseZine編集長就任。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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