2026年2月、「BlackLine Summit 2026」が開催された。「CFO組織の未来を考える──求められる変革とAI時代への対応」がテーマだった。三井住友トラストグループの佐藤正克氏(当時:取締役代表執行役専務CFO、現在:三井住友信託銀行 代表取締役会長)と、日置圭介氏(日本CFO協会ほかシニア・エグゼクティブ)が登壇した。経理財務DXやAIをどう活用するか、CFO組織のあり方について語られた。
BPRなきAIは「電卓がExcelに変わった」だけに終わる
「AIを使って今のオペレーションのプロセスに乗せても、ちょっと便利にはなると思うんですが、結果としてその効果は相当限定的になる」──対談の冒頭、佐藤氏は会場に向けてこう問いかけた。日本企業の経理財務が直面する構造的な課題と、AI時代を見据えた組織変革の本質が、その後も正面から問われていく。
資産運用残高139兆円、資産管理残高257兆円を誇る三井住友トラストグループは、信託銀行を中核に資産運用・資産管理・不動産ビジネスを展開する。資産運用・資産管理の領域では国内トップクラスのシェアを持つ。そのCFOが自社の経理財務改革の現状を「改善すべき課題は多くある」と前置きしながら語った内容は、同様の課題を抱える多くの企業IT関係者にとって、率直すぎるほどのリアリティを持っていた。
「20数年前からオペレーションの基本は変わっていない」
佐藤氏が財務・経理部門を直接管轄するようになったのは約3年前のCFO就任時。それ以前は経営企画畑を歩んできた。初めて管理会計のオペレーションを子細に見た際の驚きが、今の変革推進の原点になっているという。
「20数年前に私が経営企画に来て、様々な業務のオペレーションを見た時もExcelは使っていたが、基本的なオペレーションのフローはその時と何にも変わっていなかった」
なぜBPR(Business Process Re-engineering:業務プロセス再構築)が進まないのか。佐藤氏は構造的な理由を2つ挙げた。一つは「優秀な人が職人技で非定型業務をこなすことに誇りを持っている」こと。定型化・システム化しようとすると、「できません」という顔をされるという。もう一つは日本の雇用慣行の問題で、生産性を上げてもヘッドカウントを削減できない構造上、イニシャルコストをかけてBPRをやる経営的インセンティブが薄かったということだ。
それでも今、BPRに本腰を入れざるを得ない理由として佐藤氏が挙げたのは少子高齢化、コーポレートガバナンスの高度化、そしてAIという3つの力学だった。
少子高齢化は、人口動態として労働力の減少が避けられない時代の到来を意味する。グループの次期中期経営計画では、コストを抑えながら業容を拡大するシナリオを描かざるを得ず、本部機能に優秀な人を集めてオペレーション作業をさせ続けることは現実的ではなくなりつつある。コーポレートガバナンスの観点では、資本市場との対話において大量のデータを正確かつスピーディに処理する必要性が高まっており、月次の数字を確認するのに何日もかかる状態ではリスク管理上も改善の余地があると感じているという。
そしてAIについての見方は、会場に最も響いたといってよいかもしれない。「電卓がExcelに変わったとき、便利だとは思ったが、仕事が楽になったかというと全然そんなことはなかった。おそらくAIも、プロセスを残したまま入れても同じことが起きる」という言葉は、多くの経理財務担当者が薄々感じながらも言語化できていなかった懸念を明快に表現していた。
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