既存業務を「半分の人数で回す」という目標設定
では具体的にどこまで変えようとしているのか。佐藤氏が社内に示している目標は明確だ。「既存業務は半分の人数で回す」というものだ。
「仕事はいくらでもある。心配するな、既存業務は思いっきり減らせ、と部下には言っています」
空いた人員をどこに充てるかについて、ピラミッドの頂点に近い立場から見れば、やりたいことは「山ほどある」が、人が足りずにできなかったのが実情だという。BPRによって生まれた余力を新しい価値創出に振り向けるという考え方は、製造業では自動化が進んだ工場現場で見られてきた光景と本質的に同じであると日置氏は指摘した。
財務会計の領域では、古いメインフレームの勘定系システムが抜本的な変更の障壁になっている。新しい商品や会計処理が出るたびに外側でExcelによる手作業対応が増えてきた構造を、取引管理システムと会計帳簿を直結するかたちに作り直す方向で検討を進めており、「数年かかる」と見込む。管理会計の領域ではパランティアなど複数のSaaSパッケージを活用し、事業ポートフォリオ分析から段階的に乗せ替えを進めている最中だという。
グループ会社の経理業務のシェアード化も同時並行で動いている。従来はポストオフをした社員が子会社に出向いて経理を担うというローテーションが機能していたが、それが維持できなくなりつつある。集約化を進めると、1ヵ所に集まった担当者が自ら効率化を考えはじめるという副産物も出てきており、「思ったより順調に進んでいる」という。
データマネジメントの観点では、管理会計のベースデータの作成が各事業部門に委ねられており、財務会計との一致を図ることは非常に難しいという。「入口データを定義して、変更の決裁権をCFOに集約すべきだと個人的には思っている」という発言は、データガバナンスの本質を突くものだった。
AIと人間の役割分担──「どうありたいか」のイメージが問われる
AI時代の経理財務人材像について、佐藤氏はある知的作業の構造図を示しながら持論を展開した。知的作業を「どうありたいかのイメージを創り出す→情報収集→分析→アウトプット→実行」という5段階に分けると、中間の情報収集・分析・アウトプットはAIが得意とする領域であり、人が今後力を注ぐべき領域は最初の「イメージを創り出す」と最後の「実行」という考え方だ。
「企画部は、大体この真ん中あたりに時間を使っている。私も10年ぐらいずっとそれをやってきた。今思えば何だったんだろうと思っている」
若い社員に向けてよく伝えるメッセージとして紹介されたのが、スティーブ・ジョブズとガラケーの話だった。日本の携帯電話メーカーは優秀な人材と資金を投入し、市場調査も徹底して行ったにもかかわらず、ジョブズ一人がiPhoneを世に出しただけで産業ごと消滅した。その差は分析の精度ではなく、「情報端末はこうあって欲しい」という強烈な意志と、それを実際に具現化する実行力にあった、という文脈だ。
「作業に時間を使わせることは、経営として従業員に申し訳ない。本当ならやりたいことや自分の気持ちに向き合い、挑戦する時間を作ってあげなければいけない」
この視点は、AIの活用方針にも直結する。SaaSパッケージにAIが組み込まれていく現状を踏まえ、まずそこから活用を始める方針を示しつつも、自社でエージェンティックAIを構築するには相当の時間と費用がかかる現実も率直に認めた。AIを活用したFP&A(Financial Planning & Analysis:財務計画・分析)の強化という文脈でも、情報収集・分析という中間プロセスが機械化されたあと、人がどう貢献するかというロール設計が問われてくるとの見方を示した。
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