リクルートのデータ組織の役割とマトリクス構造
2023年8月1日から10日までの10日間、オン/オフ/ハイブリッドで『デタマネFES・夏2023』が開催された。JDMCコミュニティ主催によるデータマネジメントの推進と啓蒙活動を行うロングランイベントだ。
8月3日のライトニングトークに登壇したリクルートのデータ推進室データテクノロジーユニットの阿部直之氏は、2021年4月、中核事業会社と機能会社の7つを統合した新制リクルートにおいて、取り扱うデータ特性も大きく異なる複数の事業領域に対峙することになったデータ組織の喫緊の課題について、横断組織の専門性マネジメントを統括する立場から、実践的な見解を披露した。
リクルートホールディングス配下で、国内のマッチングのソリューションSBUを担当する企業であり、「SUUMO」「ゼクシィ」「リクナビ」「じゃらん」「カーセンサー」「ホットペッパービューティー」「スタディサプリ」「Airレジ」などを代表とする「Air ビジネスツールズ」など多種多様なサービスを運営しているリクルート。同社のデータ組織は「データ推進室」で運営している。
「HR(human resource:人材)のデータ組織をはじめ、飲食、住まいなど、たくさんの事業領域のデータ戦略に分割した“縦組織”の中で、データサイエンティストやデータエンジニアとデータマネジメントを行うメンバーが活動しています。各自が縦の組織に点在するので、それぞれの知見の持ち寄りや各組織の専門性の基準を統一するために横断する組織を持っています」と阿部氏はリクルートならではのデータ組織の構成を語る。
この横断組織は採用・育成を含むデータの専門性強化に責任を持つ組織として運営され、阿部氏はその専門性におけるマネジメントを統括する責任者だ。
リクルートグループの会社統合や組織統合で、何がもたらされたのか。
2021年、リクルートグループは中核事業会社と機能会社の7つの会社を統合して、一つの会社組織となった。データ推進室は各事業会社のデータ人材を集めて再編・組織化され、7つの会社にあったデータ組織を一つにまとめた形になり、マトリクスの構造を作る。
阿部氏は統合直後を以下のように振り返る。
「会社統合した結果、リクルートは大小合わせて数百ものサービスを持つこととなり、各サービスの取り扱う商材やデータ属性、ユーザー層やアクション方法も異なる状況になっています。マッチングプラットフォームのメディアビジネスや「スタディサプリ」に代表されるサブスクリプションモデル、「Air ビジネスツールズ」などのSaaSモデルというようにビジネスモデルだけとってもバリエーションがある状態です」(阿部氏)
さまざまな種類のサービスをもつ複数の会社組織を統合することは、それぞれ異なる事業領域の中で個別進化した複数の組織文化を一つの箱に強引に放り込むようなものだという。
データ組織の観点からは、異なる技術スタッフが大量に集うことになり、クラウドをとってもAWS、GCP、Azureほかの多様な環境が存在していた。スタッフの技術にバラつきがあり、それを支える技術的思想も全く異なる。「デリバリーを促進する」、「品質を向上する」ための取り組みも、思想レベルで違いがあり、それぞれの思想が一つの組織の中に同居することで、多数の大変なコンフリクトが発生したという。
通常、こうしたバラつきを標準化し、1つの手法や環境に揃えるアプローチがよく採用されるが、リクルートでは逆にその多様性を活かして、それぞれの事業領域の個別最適と全体のデータのバランスをとるアプローチを採用した。個別最適と全体最適という2軸の価値向上とそれぞれで向上した価値水準の維持を、「トップアップ」と「ベースアップ」、「ボトムキープ」という3つのアプローチを組み合わせることで図る方法である。