NECが掲げる「クライアントゼロ」 自らの実践知を顧客・社会に還元へ
日本の社会インフラを支えるNECにも変革の波が訪れている。同社は、2025中期経営計画で「社内のDX」「お客様のDX」「社会のDX」を経営の中核に設定。社内のDXでは、「クライアントゼロ」という考え方を掲げ、自社をゼロ番目のクライアントと位置づけた上で、最先端のテクノロジーを自社で実践し、変革を先導してくことを目指している。多様な業種や規模、環境の顧客を支援する同社だが、それらに共通する課題がNEC社内にも見られるからだ。『2025中期経営計画』達成に向けた次世代データプラットフォームの構築もこの考えの下で実行された。
この基盤構築の陣頭指揮を執ったのは、関徳昭氏。IT業界で20年以上の経験を有しており、アプリケーションからインフラ、データ活用など、フルスタックエンジニアとして活躍してきた人物だ。現在は、その知見を活かしてNECグループ全体にわたるITアーキテクチャの企画・設計などを担当している。
「『2025中期経営計画』において、DX推進が重要なテーマとされています。まずは、“社内のDX”に取り組み、その知見を生かして“お客様のDX”を推進。そして、“社会全体のDX”の実現を目指します。すべての方が人間性を発揮できる社会の実現を目指し、3つのDXを中心に据えて事業展開しています」
柔軟性や構築スピード、コンポーザブルな基盤を求めて
NECでは、データプラットフォームに課題を抱えていた。2015年頃からエンタープライズITの世界ではDXへの注目が高まり、データプラットフォーム構築の動きが活発になっていたことを憶えている方もいるだろう。しかし、当時はオンプレミス環境に大規模なデータ基盤を構築することが主流であり、特に問題視されていたのがスピードだ。
関氏は、「基盤の構築に2年程かけた後、データを集めていくような開発フローが一般的でした。しかしながら、これではデータを活用するまでに少なくとも3年は経ってしまう。急速に変化する現代において、このような時間のかかるアプローチは許容できません」と指摘する。NECにおいても、インフラ構築からデータ活用までのリードタイムを縮めることが最大の課題だった。
同社において、特にデータプラットフォームを必要としていた領域はマーケティング。経理や財務といった基幹系システムのデータと並んでボリュームが大きく、データ分析やデータ利活用という側面から見たときに後れを取っていた。従来はマーケティング部門が独自にデータベースを構築し、IT部門にデータの提供を依頼してBIツールなどで利用するケースが一般的だったが、社内DXを実現するためには全社横断でのデータ活用が欠かせない。そこで、次世代データプラットフォームの構築において重要視されたポイントは、柔軟性や将来性を担保すること。関氏は、そのためにクラウドネイティブなデータプラットフォームが必要だと考えたという。
「システムアーキテクトとして重要視していることは、ベンダーフリーかつコンポーザブルなこと。1つのベンダーに依存すると、相互接続の利便性は享受できるものの、コンポーネントの変更などが難しい。そこで、インターフェースの互換性や各ベンダーとの信頼性、技術の将来性、エコシステムの構築能力などを選定評価基準の1つとしました」
手始めに関氏は、関係する各部門にヒアリングを実施。このとき、現在の状態「As Is」と理想の状態「To Be」のギャップを分析するような手法はとらず、“To Beを先に描く”アプローチで進めていったという。このとき、Snowflakeの存在を知ることとなる。
「初めてSnowflakeについて話を聞いたとき、その製品アーキテクチャが他のデータベースとまったく異なる設計思想を持っていることに気づき、興味を抱きました。柔軟で安心できる基盤を作りたいという我々の想いとも合致しており、検討を重ねた結果として採用に至りました」
Snowflakeによって、データ活用のスピード向上
Snowflakeの導入にあたっては、これまでNECが運用してきたデータストアと併用する形で試用期間を設けながら、使用感や導入効果を検証。その結果、同社において積極的に利用を拡大していくことに。このとき評価したポイントの1つがAWSやGoogle Cloud Platform、Microsoft Azureなど大手クラウドベンダーと協同しているところだ。データを特定の環境下に留めなくとも活用できるSnowflakeのアーキテクチャについて関氏は高く評価する。
「Snowflakeのような多様性と拡張性について、他のベンダーでは実現が困難でしょう。また、利用した分だけ支払う従量制の課金モデルも魅力的でした」
実際に、NECの次世代データプラットフォームとしてSnowflakeを採用することに決定したのは2020年。そこから構築を進めていき、実運用が始まったのは2022年のことだ。現在のユーザー数は約3万人、データの種類も約900と順調に利用者とデータが増えている。特に効果を上げているのが「データの共有」である。各部門がSnowflakeのインスタンスを作ることで、部門間の共有も進んでいると関氏。「データ共有のコスト効率とスピードには、正直驚かされています。社内から相談を受けたとき、スタッフが簡単に操作できることを説明すると非常に喜んでくれていますね。Snowflakeを採用したことでデータ活用のスピードが圧倒的に速まっています」と強調した。
『2025年中期経営計画』達成に向け、データをさらに集約へ
これらの取り組みが評価され、Snowflakeから贈呈されたものが「DATA HERO OF THE YEAR」というアワード。関氏は「嬉しくも少し驚いている」と明かした。その理由は、NEC全社でのデータ活用がまだ道半ばにあるからだ。「まだ、やりきっていません。しかし、データ基盤を立ち上げて『0から1のステージ』に達した。そこに対する評価と考えており、今後はよりデータ活用の輪を広げていきます」と意欲を見せる。
NECの『2025中期経営計画』の達成に向け、成長を支えられるほど大きな存在となった次世代データプラットフォーム。今後も2025年に向け、さらにデータを集約していく予定だ。最後に関氏は、今後の抱負について次のようにコメントした。
「2025年以降も、すべてがデジタル化された世界を目指していく中で、NECはデジタルカンパニーだと認知してもらえるよう取り組みを進めていきます。また、システムアーキテクトとしてはデータプラットフォームアーキテクチャを基盤としながら、会社や世の中の仕組みをデザインするような、より広範な“エンタープライズアーキテクト”として成長したいですね」