「HR SaaS」活用の機運が高まる中、IT部門が対応すべきこと
先述したようなHR SaaSを取り巻く現状を受けて、ITシステムを扱うIT部門・人事部門の担当者がすべきことは、「HRSaaSの特徴」を捉えた“業務プロセスの変革”を模索することだと考えている。
この「HRSaaSの特徴」とは、システム間でやり取りされるデータ、実際に行われている業務などが、すべて従業員にかかわる人事情報[4]を起点としていることを指す。
これを踏まえた上で、HRSaaSを活用するためには、あらゆる人事情報を「統一された基準日」ごとに履歴を管理して、“活用できる状態”にしておく必要がある。
そして、IT担当者と人事担当者が取り組むべきことは、大きく4つあると考えている。
1つ目は、各部署と連携し「人事情報へのアクセス権限を解放すること」。
大手企業になればなるほど、部署ごとにHR SaaSを導入しているため、人事情報はガラパゴス化しやすい。情報を適切に扱う上では、人事部やIT部門だけでなく、必要な従業員が閲覧・活用できるように、アクセス権限を細かく設定しておくことが極めて重要だ。
2つ目は、各部署が利用する人事系システムに蓄積されている「人事情報を標準化すること」。
利用するシステムの数が増えるほど、そして人事情報を扱う担当者が増えるほど、人事情報に“表記ゆれ”が発生しやすい。同じ意味を持つ情報であれば、可能な限り表記を統一させたほうがシステム間連携もスムーズに進み、人的資本情報を活用するためのハードルも下がると考えている。
3つ目は、「人事データの“鮮度”を保つための仕組みを作ること」。
言わずもがな人事情報は、従業員の環境変化や組織編成にともない、常に変化し続けるものだ。大手企業ともなれば、多種多様な人事情報を従業員人数分だけ更新しなければいけない。その負担は決して小さくない。そこで担当者の手を介すことなく、自動的に情報を追加・更新できる仕組みを作ることで、負担をかけることなく常に最新の人事情報を保つべきだ。
4つ目は、「適切な人事情報を蓄積すること」。
人事情報は、多種多様であることに加えて、過去・現在・未来と時系列で管理する必要がある。そうでなければ、正しく、最新の情報に基づいたデータを用いて、人事情報を活用すること(人事評価やスピーディーな給与改定など)は難しいだろう。
[4] 従業員の入社・異動・退職にともない発生する業務、入社後のeラーニング履歴をもとにした段階的な人材育成、評価情報をもとにした人材分析など
社内・各ベンダーとの協力体制を築く
ここまでHR SaaSが増加する状況下において、IT部門と人事部門が対応すべきことを説いてきた。その上で、社内の関係部署だけでなく、外部のSIerやベンダーと協力して、人事データをスムーズに構築するための体制を整えることも、少数精鋭で運用していくためには重要なポイントとなる。
なぜ、社内の関係部署と協力体制を築くことが必要なのか。それは、人事データの活用を目的としたHRSaaSの刷新を進める中で、人事部門とIT部門のコミュニケーションが取れていないケースを数多見てきたからだ。
たとえば、人事部門でHR SaaSをある程度選定した後、情報システム部⾨に実際のシステム導入を依頼して導入。しかしながら、人事部が求めていた機能や効果を得られず、終いにはシステム上でクリティカルな問題も発生し、数年後に違うシステムへの乗り換えが発生する、といったケースは少なくない。だからこそ、社内コミュニケーションを普段から活発的に行う必要がある。
また、人事イベント(入退社、異動など)ごとに発生する、従業員アカウントの発行業務などを自動化することは、今後のシステム運用を円滑にするためにも重要だろう。
社内コミュニケーション以外にも、HR SaaS領域における関連業務(人事労務や社内稟議など)についても、ベンダーやSIerと一緒になってデータ連携に最適なシステムを構築し、業務効率化につながる組織体制まで整えることが望ましい。
これらを実現させるためには、IT部門と人事部門、そして外部ベンダーが連携し、横断的に業務を自動化していくことが欠かせない。そうすれば、より適切なHR SaaSの運用を実現できるだろう。
最終的には、より効率化されたアカウント管理により、HR SaaSの利便性を最大限に活かすことで、人事情報にかかわるセキュリティやコストの問題までも改善できると考えている。