BizOpsが企業成長の鍵に──SaaS企業が実践するデータ駆動経営
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株式会社マネーフォワード ビジネスカンパニー横断BizOps本部 BizOps部 部長 荒井喬碩氏
jinjer株式会社 ビジネス統括本部 事業企画部 ジェネラルマネージャー 寺出岳大氏
一般社団法人BizOps協会 代表理事 祖川慎治氏
近年、「Ops(オプス)」という言葉がビジネスの現場で頻繁に使われるようになっている。OpsとはOperationsの略だが、元々はソフトウェア開発と運用を統合する「DevOps」に端を発した流れだ。最近ではマーケティング活動の効率化とデータ管理を担う「Mops」(Marketing Operations)、営業プロセスの最適化と収益向上を目指す「RevOps」(Revenue Operations)などへと広がり、組織のサイロ化解消、データとテクノロジーの活用による効率的かつ効果的な運営を目指す取り組みとして注目されている。
これらの「Ops」が次々と登場している背景には、企業運営における複雑性の増大がある。市場環境の変化が加速し、多様な顧客ニーズに迅速に対応する必要性が高まる中で、従来の分業型組織モデルでは対応しきれない課題が浮き彫りになってきた。特定部門内で完結する業務効率化だけではなく、経営層と事業組織との間で一貫性のある連携を実現しなければ、競争力を維持できない時代になっているのである。
このような状況下で登場したのが「BizOps」だ。BizOpsは「ビジネス」と「オペレーション」を全社的な視点で結びつける役割を担う。その目的は、データ駆動型経営や部門横断的な連携強化、プロセス効率化によって企業全体として持続可能な成長と競争優位性を築くことである。BizOpsの本質は、大きく3つの特徴によって説明できる。
まず第1に、BizOpsはデータ駆動型経営を推進する仕組みである。これまで多くの企業では、営業部門やマーケティング部門、人事部門など異なる部署ごとにデータが分断され、それぞれ独自の基準で管理されてきた。その結果、一貫した意思決定が困難となり、多大な時間と労力が必要となるだけでなく、場合によっては矛盾した情報によって誤った判断が下されることもあった。BizOpsはこうした状況を改善するため、各部門から収集されたデータを統合し、一貫性ある情報基盤を構築する。そして、そのデータをリアルタイムで活用することで迅速かつ正確な意思決定を可能にする。
第2に、BizOpsは部門横断的な連携強化を目指す仕組みでもある。多くの企業では、部門ごとに最適化されたプロセスが存在しているものの、それらが相互連携していないことによって非効率性が生じている。例えば営業チームとマーケティングチームが同じ顧客情報を別々に管理している場合、それぞれの活動が重複したり矛盾したりすることが珍しくない。BizOpsはこうした「サイロ化」した部門間の壁を取り払い、全体最適化を実現するための橋渡し役となる。
第3に、BizOpsはプロセス効率化と柔軟性向上にも寄与する。従来、多くの企業では繰り返し発生する手作業や非効率的なプロセスによって、生産性が低下していた。また、市場環境や顧客ニーズの変化への対応も遅れがちだった。BizOpsはこうした課題にも対応すべく、自動化ツールや最適化されたプロセス設計によって業務効率を高めると同時に、市場変化への柔軟な対応力も育む。
このような背景から、多くのスタートアップやSaaS系企業で急速に導入されているBizOpsだが、その導入プロセスには多くの試行錯誤や苦労も伴う。パネルディスカッションに登壇したマネーフォワード、jinjer、BizOps協会の3者はそれぞれの経験から、データマネジメントや組織・人材の課題への取り組みを明かした。