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【デジタル人材育成学会・角田仁会長が解き明かす!】DX先進自治体の「組織変革」のカギ

格差が広がる自治体DX、唯一の打開策は「外から学ぶこと」──先行く5自治体の“成功要因”を探る

#1:自治体DXの課題は「人材と組織」に収斂する

先行く民間企業と同じく「人材と組織」に行き着く

 では、以上を考慮すれば自治体DXは安泰かと問えば、決してそうではない。最終的に課題となるのは「人材と組織」だ。端的に言えば、人材とは「デジタル人材の確保・育成が難しい」という課題であり、組織とは「組織文化の変革が非常に困難である」という課題である。

 自治体DXの1周先を走る民間企業(特に大企業)のDXでは、2018年にデジタル化・DXの取り組みを始めた企業が多いが、そこから7年余りで数多くの施策を実施して課題も出尽くており、現在は「人材と組織」に課題が収斂しつつある。

 周回遅れの自治体DXにおいても、間もなく同じ状況に辿り着くことは自明である。特に、先述の通り自治体DXの施策は限られており、また技術的にもそれほど難易度が高くないことから、民間企業よりも早くその課題に収斂していくであろう。さらに厄介なことに、人材と組織の課題では、民間企業より自治体の方が困難を極めることが予想される。

 まず組織の課題では、多くの自治体は長年にわたり「石橋を叩いても渡らない」という保守的な組織文化が醸成されており、職員も「出る杭は打たれるので、新しいことには挑戦しない」という意識が強い。中には改革意識が微塵もない自治体すらあるほどだ。言うまでもなく、DXとはデジタル技術を用いた業務変革を意味しており、今後厳しい道のりが予想される。

 次に人材の課題では、最終的に旧態依然とした地方公務員の人事制度の改革に切れ込む必要があるが、それは言うほど容易なことではない。そもそも公務員に就職する人はその安定性に魅力を感じて門を叩いていることが大半であり、保守的な人事環境に対して(夜の居酒屋で文句を言うことはあっても)本気で人事制度の改革を望んではいないだろう。民間企業においても、大企業ほど安定志向の社員が多く、せっかく挑戦的な人事制度を整備してもそれに応募する人がほとんどいないという状況が生まれるが、公務員の世界ではそれがさらに顕著になると予想される。

自治体を救う“唯一の道” 他の自治体から学ぶべし

 では、各自治体では「人材と組織」の課題にどう対処すべきか。これが難問である。筆者は、その課題解決にセオリー(定石)はないと考える。自治体が1,700あれば、1,700通りの解決策がある。つまり、個別性が高いということだ。これは民間企業においてもまったく同様であり、筆者がこの課題に関する相談を受けた際には、「この手法を適用してください」といった一律な提案は意味がなく、1社ずつコンサルティングするしか道はないと考えている。

 こう聞くと、つい思考停止しまいそうになるが、決して諦めてはいけない。これを突破する道が1つだけある。それは、他の自治体の事例に学ぶことだ。一見すると当たり前のようだが、これが唯一かつ重要な手法である。

 ちなみに、民間企業でこの手法は使えない。民間企業では、デジタル化・DXの内容は競争領域であり、プレスリリース程度のことは知れても、詳細な内容は企業秘密であることが多い。特に同業他社は最大のライバルであり、「最も知りたい企業から、最も情報が取れない」という状況が一般的である。

 一方、自治体ではすべての業務が非競争領域であり、むしろ良い事例は詳細を含めて全国へ横展開すべき代物である。しかし、現実はその逆である。出る杭は打たれる文化の強い公務員の世界では、外へ向かっての情報発信が伝統的に苦手であり、せっかく良い施策を実施していても、その情報が外へ出て来ない。また、自治体同士で直接的に情報交換する習慣もなく、「視察」と称して大袈裟かつ何も得ない交流があるだけである。

 以上の理由から、メディアを通して自治体DXの先駆的な事例を発信していくことには大きな意義がある。

著者推薦「トップランナー」5自治体を紹介

 では、どの自治体をベンチマークすべきか? それはもちろん、自治体DXの分野で先駆的な取り組みにトライしている「トップランナー」である。筆者の印象では、トップランナーの自治体は100~200あり、残り1,500~1,600の自治体にとっては、非常に有り難い存在だ。

 それゆえ、本連載では第1回で概要を述べた後、第2回目以降は先駆的な自治体の事例を取り上げ、職員へのインタビューから抽出できる知恵・ノウハウについて筆者が解説する。本連載の全体的なテーマは「人材と組織」だが、各回でさらにテーマを絞り、デジタル人材の確保・育成、方針・計画の策定、施策の実現、組織変革などについて論じていく。

 本連載では「先駆的」というキーワードを意識的に多用する。先駆的とは、他に先駆けて実践するという意味である。自治体の組織文化に足りないものは、これだと思う。まずはやってみて、実践した反省をもとに改善してブラッシュアップし、再度やってみる。まさにPDCAだ。先駆的という言葉には、この「まずはやってみる」というニュアンスが含まれている。何事も最初にやる者は苦労をともなう。ファーストペンギンになるには勇気もいる。本連載では、この言葉に相応しい、先駆的な取り組みを実践している自治体を5回にわたって取り上げる。

 本連載は、自治体職員、特にデジタル戦略課や情報システム課など自治体DXを推進している皆様に対して「推進上の知恵やノウハウ」を伝えることを目的とする。是非ご期待願う。

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この記事の著者

角田 仁(ツノダ ヒトシ)

1989年に東京海上火災保険に入社。主にIT部門においてIT戦略の企画業務を担当する。2015年からは東京海上のIT企画部参与(部長)および東京海上日動システムズ執行役員。2019年、博士号取得を機に30年間務めた東京海上を退職して大学教員へ転じ、名古屋経済大学教授や千葉工業大学教授を歴任した。現在...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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