タケダが内製のデジタル人材育成に挑戦──半年間、育成プロジェクト“のみ”に専念させた施策の裏側とは
伝統的な大企業にありがちな「組織の壁」を打ち破る、アジャイルな組織文化実現の道筋
卒業生たちが活躍、さっそく定量的な成果が出始める
DD&Tアカデミーの卒業生たちは現在、データ・デジタル&テクノロジー部のメンバーとしてデジタルマーケティングのオペレーション改善、プロダクト開発、データ分析など、多岐にわたる領域で活躍している。彼らが創出する新たな価値は、さっそく定量的な成果として顕在化し始めているそうだ。
たとえば、同社が提供している医療関係者向け情報サイトに対する顧客からの評価は、サイトの改善を繰り返した結果、業界内で20位から10位へと向上。また、MR向けのダッシュボードをアップデートしたことで、役立ち度が77.2%に向上したという。さらに、AIを活用したMRへの推奨活動に対するレスポンス率は、91.4%という高い数値を記録した※。
「実際に社内でリスキリングを行ったことで、多くの学びを得られた」と打川氏は語る。まず、“リスキリング後にどうなりたいか”という中長期的なデザインを行うことの重要性がわかったという。単にスキルを習得させるだけでなく、その人材が将来的にどのような役割を担い、組織にどのような価値をもたらすかを明確に描くことが、成功のカギとなる。
次に、研修に専念できる環境を作ることが大切だという。今回、同社は約半年間にわたって研修を実施したことで習熟度を高められた。長期間の拘束は難しくとも、「1日の中の数時間は研修に専念できる時間を設ける」などの工夫によって、得られる効果が変わってくるのではと同氏は語った。
また、参加者のモチベーションの維持には対話と交流が必須とのことだ。運営側は早いサイクルで参加者の声を反映し、スキル面だけではなくてマインド面もサポートしていくことが重要だ。また、今回のプロジェクトは運営自体も打川氏が所属しているデータ・デジタル&テクノロジー部の内製で行った。自らの業務を棚卸し、どのように教えればよいかを考えるプロセスを通じて、自己の知識を再構築しスキルを向上させる機会を得たことで、同部の運営メンバーの成長にもつながったそうだ。
これは、能力開発が一部のメンバーのためだけでなく、組織全体として取り組むべきテーマであることを示している。打川氏は、「このプロジェクトは、価値創造におけるアイデアとアウトプットの質、そして生産性の向上が真の目的だ」と述べ、単なる外部ベンダーの費用削減を超えた、本質的な価値の創出こそがリスキリングの真の目的であることを強調した。
この取り組みは、社員を「リソース」としてではなく、持続的な成長を担う「パートナー」として捉える同社の姿勢が色濃く反映されたものだ。テクノロジーが業務を効率化する中で、「人がやるべき仕事がなくなるのではないか」という懸念は常に存在する。しかし打川氏は「テクノロジーの進化によって、人は“人にしかできない”より付加価値の高い仕事に集中でき、そこにはやりがいが残る」と語る。
「タケダのデジタル変革は、いまだ旅の途上にあります。我々は、『全社員がデジタルリーダーになる』という目標を掲げ、従業員を巻き込みながら日々挑戦を続けてまいります」(打川氏)
※ 2025年8月28日の講演後、最新の数値にアップデートした数値
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