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Santenと日本ハムはマイクロソフトの生成AIツール導入でどう変わった?──研究/開発での活用に脚光

「Microsoft AI Tour Osaka」レポート

日本ハム:“仮想顧客”の声をもとにヒット商品を開発

 日本ハムは、Azure OpenAI Serviceを活用し、AIで生成した仮想顧客による分析を実施し、コンビニエンスストアのプライベートブランドの新商品を開発した。この事例は日本マイクロソフトのサイトでも掲載されている[1]ので、知っている人も多いかもしれない。だが、AIで作成した顧客が実際のビジネスで活用されたと聞いて疑問を感じずにはいられなかった。改めて、日本ハム IT戦略部 DX推進グループマネージャーの藤本芳人氏に、仮想顧客をビジネスに活用した理由と成功の要因を訊いてみた。

 日本ハムは2024年5月、システムサポート社が開発したチャット型アシスタントアプリとAzureを組み合わせた社内GPT基盤を導入した。チャットアプリはシステムサポート社のものだが、それ以外のテキスト解析処理やテキスト生成、画像解析処理などの機能は内製開発したものだという。

 「利用開始して1年半ほどになるが、ユーザー数は6,000人、利用回数は月間で8万回に上る。好調な利用状況といっていいだろう。利用者1人あたりの利用コストが月額560円程度で、市販のサービスを使うより大幅にコストを抑えることができている」(藤本氏)

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 同社が生成AI活用の一環として取り組んだのが、冒頭に紹介した生成された顧客による「GC(Generated-Customer)分析」だ。日本ハムでは新商品を開発する際に、顧客へのヒアリング調査を行っている。対象セグメントにインタビューしたのち、インターネットでも調査して信憑性を高めており、1~2ヵ月に及ぶ。コストと時間ともにかかっており、この調査をAIに“代行”しようと考えたのだ。GC分析では、仮想的なシミュレーターを生成し、アンケートやインタビューを実施。プロファイリングデータは、従来蓄積してきたものを利用しているという。

 GC分析を利用することで、調査対象が5,000人であっても即日、調査と分析を行うことができるようになった。従来の定性分析に比べ、大幅な時間短縮、コスト削減につながっているという。コストと時間だけでなく、GC分析で大きなメリットが出たのが少数パターンを網羅的に洗い出すことだ。考え得る商品パターンを洗い出し、アンケートと回答データの解析を行う作業が生成AI上で可能となる。

 「GC分析利用に2025年前期に取り組み始め、たまたまではあるが非常に早期に成功事例化することができた。リニューアル前より売上を伸ばせた」(藤本氏)

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日本ハム株式会社 IT戦略部 DX推進グループマネージャー 藤本芳人氏

 これだけ説明を受けても、生成AIが作り出した仮想顧客からのアンケート調査で、売上増加につながるような商品開発ができるのか疑問は拭えない。藤本氏自身も「簡単なものではないので、成功事例ができるなんて思っていなかった」と話す。そもそも、生成AIを使って仮想顧客を作り出してアンケート調査できないか、と言い出したのは商品開発に携わる担当者だったという。

 「当社に限らず、メーカーは商品開発において様々な試みが行われてきた。それだけに商品開発に関わるスタッフとしては、新しい取り組みとして『こんなことはできないか?』という提案だったと思う」(藤本氏)

 商品開発のベースとして使われることが多い定性調査について、コストや期間だけでなく、必ずしも「正しいユーザーの声」が聞き取れるとは限らないという課題もあった。

 商品開発の世界では有名な逸話がある。実際に発売されて大ヒットとなった商品が、定性調査段階ではユーザーの評価が低くかったという例があるのだという。特にその時点で他に存在しないものは、ユーザーの評価が低くなりがちだ。

 それを踏まえ、藤本氏は、「お客様の声なき声をどう商品開発に反映させるのか。言語化できていないお客様のニーズ、インサイトパターンをどう捉えていくのかは、メーカーにとって大きな課題。しかも、捉えるだけではダメで、マーケットとして価値がないといけない」と指摘する。

 では、言語化されていないニーズをどう捉えるのか。それはこれまで蓄積してきた様々なデータが役立ったのだという。「GC分析では、当社が独自に収集、分析した購買傾向のプロファイリングデータを利用している」と藤本氏。

 おそらく、同じことをデータや販売経験の少ない企業がGC分析を実施しようとしても、うまくいかないのではないか。商品開発の経験、蓄積したデータがなければGC分析は成立しないからである。

 今回のGC分析は、商品のライフサイクルが短いコンビニエンスストアでの販売を想定して開発されたもので、「これをそのままスーパー向け商品開発で利用してもうまくいかないだろう」と藤本氏は話す。今回のGC分析は市場に合わせて作り上げる必要があるものだということだ。

 生成AIツールはマイクロソフト以外にも様々な企業からソリューションが提供されている。それでもAzure OpenAI Serviceを使い続ける理由は、「セキュリティは簡単に移り変えるわけにはいかない」と話す。社内秘といえるデータを活用して実現するGC分析は、セキュリティ面で不安がある環境で使うわけにはいかない技術だろう。

 最初に実施したGC分析でヒット商品が生まれたことで、「初球ホームランを打ってしまったなと社内で言われている。2打席目、3打席目でも同じようにホームランとなるとは限らないことは社内でも訴えている」と藤本氏は苦笑した。

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この記事の著者

三浦 優子(ミウラ ユウコ)

日本大学芸術学部映画学科卒業後、2年間同校に勤務。1990年、コンピュータ・ニュース社(現・BCN)に記者として勤務。2003年、同社を退社し、フリーランスライターに。IT系Web媒体等で取材、執筆活動を行なっている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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