IFSは11月13日(米国時間)、米国・ニューヨークにてグローバルカンファレンス 「Industrial X Unleashed」を開催し、産業分野に特化したAI戦略を発表した。同カンファレンスには、企業のCxOをはじめメディアやアナリストなど世界中から招待された約200名が参加。「Industrial AI Applied」をテーマに、同社が強みとする産業用AIの実用化に向けた具体的な取り組みを明らかにした。
1983年にスウェーデンで設立されたIFSは、ERPやEAMなどをクラウドベースの単一プラットフォームで提供することで知られる。航空・防衛、建設・エンジニアリング、エネルギー、製造業、交通インフラ、テレコムといったミッションクリティカルな6つの産業を中核に、90ヵ国以上の顧客をもつ。そうした顧客が利用する産業現場では、社会的な影響が多大で、人命に関わることから、わずかなエラーも許されず、99.999%といった極めて高い精度が要求される。
産業界におけるAI実装についてIFS 最高経営責任者(CEO)のマーク・モファット氏は「AIが産業を変革するという議論は多いが、実際の現場への適用は進んでいない」と指摘。世界のインフラストラクチャ再構築に年間10兆ドル、データセンター構築に今後5年間で7兆ドルという巨額の資金が投下されている一方で、AIの社会実装ではギャップがうまれているとした。
産業現場の実態としてモファット氏は、2月のミシガン州で荒天のなか、高さ60メートルの送電塔上で作業する技術者を例に挙げた。「通信圏外で初めて見る機器に対応しなければならない状況で、ChatGPTやGeminiといった汎用AIでは役に立たない。文脈を理解し、オフラインで動作し、安全性を考慮して構築される産業用AIが必要だ」と述べ、汎用AIと産業用AIの違いを強調する。
モファット氏は、工場や送電網でのAI活用といった実用的な応用につなげる「制御層とインテリジェンス層」の構築こそがIFSの役割であると話す。しかし、一社だけで主導するのは難しい。そこで、「フロンティアAIモデル」「インフラ・データパートナー」「ビジネス再構築」「フィジカルAIとロボティクス」の4つのエンジンからなる「Industrial X」の枠組みが必要であると訴える。アライアンスを具体化するべく、新たに4つのパートナーシップが発表された。
発表された4つのパートナーシップは、それぞれ異なる産業課題に対応する。
Anthropicとの提携では、同社の大規模言語モデル「Claude」を、IFSが提供する共創型イノベーション「IFS Nexus Black」に統合し、産業特有の文脈を理解する新ソリューション「Resolve」を発表。モファット氏は「Claudeの再販やホワイトラベルではなく、新しいサービスを現場に届ける」と説明した。
労働力や技能不足によりサービスの隙間や長時間の停止が発生する産業現場では、作業者を補完する技術の導入が急務となっている。そこで、Boston Dynamicsが開発した四足歩行ロボット「Spot」をIFSの資産管理システムと連携させるという。米国北東部の大手電力会社「Eversource Energy」が既に実証を開始しており、送電設備の点検や危険区域での作業にロボットを活用するという。
家庭向けに人型ロボット(ヒューマノイドロボット)の「NEO」を開発する1X Technologiesとの提携では、顧客企業とともに産業現場で活躍するロボット開発に取り組む。「今日見られる労働力不足の問題に対する答えになるだろう」とモファット氏は期待を寄せる。2026年の商用化を目指すとした。
さらにSiemensとの提携では、送電網管理システムの開発に注力する。投資計画から運用管理まで、IFSのAI技術「IFS.ai」を活用した次世代グリッド管理システムの構築を進めるという。エンジニアリングと財務計画、OTとIT、戦略的資産判断と現場でのリアルタイム実行の間にあるギャップを橋渡しする統合ソリューションを目指す。
モファット氏は「産業用AIは実世界で機能しなければ意味がない。業界の深い理解が汎用的なアプローチに勝る」と述べ、同社が数十年にわたり6つのコア産業に注力してきた経験を基盤に、産業用AI分野でのリーダーシップを確立する意向を示した。
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小山 奨太(編集部)(コヤマ ショウタ)
EnterpriseZine編集部所属。製造小売業の情報システム部門で運用保守、DX推進などを経験。
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