「広く浅いツール」を提供する情シスと「深い活用」を求める利用者……生成AIで実現する業務変革メソッド
活用成果をどう測る? 多くの事例から導いた「定着」に必要な4つの要素
生成AIへの注目が高まって数年が経過し、多くの企業が全社導入に踏み切った。しかし、導入したものの思うような成果が得られず、活用が進まないという声も聞こえてくる。日本企業の生成AI活用は、なぜ「導入」の段階で止まってしまいがちなのか。真の活用を実現するためには何が必要なのか。AI事業を手がけるカラクリの創業者である麹池貴彦氏は、こうしたAI活用における課題意識のもと、2025年4月に企業へのAI導入を支援する企業Advanced AI Partnersを創業し、AI活用の支援を行っている。同氏に、現場で見えてきた課題と、成功への道筋について聞いた。
若手コンサルがいらなくなる? 生成AIが突きつけた現実
2016年に自然言語処理の進化を感じ取り、「自然言語処理がコミュニケーションの在り方を大きく変えていく。インターネットと同じぐらいのインパクトがある」と捉え、対話AI事業を手がけるカラクリを創業した麹池貴彦氏。約10年にわたってセールスや事業開発、戦略立案に携わってきた。
そして2025年4月、生成AIが新しい大きな波として押し寄せ、世の中を変え始めていることを踏まえ、企業の生成AI活用を支援する新会社Advanced AI Partnersを設立した。設立のきっかけの一つとなったのは、2025年2月3日にOpenAIが発表したChatGPT向け新機能「Deep Research」の登場だ。これは麹池氏自身にとって衝撃的な技術の進化だったという。
「コンサルティング業界に身を置く私としては、コンサルティングの在り方を根本から変えてしまう衝撃的な技術が出てきたという印象でした。『ゆくゆくはコンサルがいらなくなるな』という直感がありました。市場調査ひとつをとっても、ChatGPTのDeepResearchの方が優秀な調査をしてくれるのです」(麹池氏)
麹池氏はDeepResearchが登場した同月に、業務委託契約をしていた若手コンサルタント4人全員との契約を解除。それまで月280万円かかっていたコストをChatGPTの最上位プラン約3万円に削減したが、半年経った現在も業務に支障はないという。「生成AIを活用すれば、現場の若手をOJTで鍛え上げてマネージャーに育てていくというプロセス自体が成立しなくなります。若手が経験を積んで育つための環境が失われてしまったという危機感を抱いています」と麹池氏は話す。
これは顧客企業の業務変革をコンサルティングで支援してきた麹池氏が、顧客が抱える課題を初めて自分事として体感した瞬間だったという。「顧客も同じ環境に置かれていて、同じような危機感を抱いている。我々自身も生成AIを活用し、コンサルの在り方を変えていかなければいけないと痛感しました」と振り返る。
日本企業に生成AIが定着しないワケ:「目的なき導入」が生むジレンマ
企業の生成AI活用支援を通じて、麹池氏は日本企業特有の課題を目の当たりにしてきた。最も大きな問題は、AIの導入を進める部署と実際の利用部署の間に存在する認識格差だ。
まず、AIの導入を推進する情報システム部門には制約がある。全従業員に等しく環境を提供するというミッションから、特定用途に特化したソリューションよりも、ある程度標準化された共通基盤の提供が優先される。その結果、「広く浅いソリューション」になりがちだ。
一方、AI利用者であるビジネス部門は、自身の具体的な業務課題を解決できる「深さ」を求める。しかし、提供されるのは汎用的なツールで、使い方の指導も不十分なために活用が進まないケースも多い。「研修をやったとしても『プロンプトの書き方研修』で終わってしまう。議事録の要約や翻訳、簡単な文章生成や画像作成はAIでできるようになりますが、それが業務で役立つかというと、すごく限定的なのです」と麹池氏は指摘する。
DX推進部などがある企業では、逆に限られたピンポイントの取り組みに集中する傾向があり、全社規模での活用に至らないケースもあるという。それぞれが真剣に取り組んでいるものの、結果的に大きく活用が進まないジレンマに陥ってしまっているのだ。
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森 英信(モリ ヒデノブ)
就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務とWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業した。編集プロダクション業務では、日本語と英語でのテック関連事例や海外スタートアップのインタビュー、イベントレポートなどの企画・取材・執筆・...
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