2027年4月からの強制適用が見込まれる「新リース会計基準」。TOKIUMの経理部は自社プロダクト開発のため、アナログでの早期適用を断行した。そこで明らかになったのは、新リース会計基準の適用における「いくつもの落とし穴」だった。
強制適用前の早期決断 プロダクト開発とIPOを見据えた挑戦
2027年4月の強制適用が予定されている「新リース会計基準」。国際的な会計基準(IFRS第16号)との整合性を図るため、従来の賃貸借処理(オフバランス処理)をあらため、原則としてすべてのリース契約を資産・負債としてオンバランス計上することが求められる大きな改正である。
多くの企業が情報収集を始めたばかりの段階で、経費精算ソリューションなどを提供するTOKIUMは、他社に先駆けて「早期適用」に踏み切った。
同社で経理部長を務める藤田裕史氏は、前職までの約20年のキャリアにおいて、過去のリース会計改正に対応した経験をもつ。それ故に今回の改正についても当初からアンテナを張っていたというものの、同社は現時点では未上場企業であり、本来であれば対応する必要はない。それにもかかわらず早期適用を決断した背景には、同社ならではのユニークな事情があった。
最大の動機は「自社プロダクトの開発」だ。
「いくつものプロダクトを提供している中、われわれが新リース会計基準に対応していないのはどうなのだろうという思いがありました。他社よりも早いタイミングから早期適用し、その過程での“大変さ”も含めて発信することが、お客様にとって意味のあることではないかと考えたのです」(藤田氏)
経理部自らが新リース会計基準に対応する、ファーストユーザーと位置づけて早期適用に挑む。それもあえてシステムを使わずに「アナログ」で実務を行うことで、ユーザーが直面するであろう、“つまずくポイント”を洗い出してプロダクトに還元するねらいがあった。
このプロジェクトの実務責任者に抜擢されたのが、入社4年目の和田陸氏。営業職を経て異動してきたばかりで、当時の経理歴は約1年ながらも米国公認会計士(USCPA)の学習を通じて国際会計基準の肌感覚を持っていたことが評価された。
「正直なところ、プロジェクト責任者に任命されたときは大変さが分かっておらず……実際に動き出してみると、その内容に驚きました」と当時の心境を振り返る。こうして2024年末、経理部を中心としたタスクチームが結成され、プロダクト開発と並行しながら“完全手作業”による新リース会計基準への対応プロジェクトが幕を開ける。しかし、そこで待ち受けていたのは、想定をはるかに超える「アナログ作業の泥沼」だった。
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岡本 拓也(編集部)(オカモト タクヤ)
1993年福岡県生まれ。京都外国語大学イタリア語学科卒業。ニュースサイトの編集、システム開発、ライターなどを経験し、2020年株式会社翔泳社に入社。ITリーダー向け専門メディア『EnterpriseZine』の編集・企画・運営に携わる。2023年4月、EnterpriseZine編集長就任。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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