本連載では、ITプロジェクトにおける様々な勘所を、実際の判例を題材として解説しています。今回は、システムの「アクセシビリティ」を巡る法的な義務について、筆者の考察を述べてみます。取り上げる裁判はITプロジェクトに関するものではありませんが、ここで出た判決が、現代のシステム開発にも同じような理論で適用される可能性があると考えたからです。
後回しにされがちなシステムの「アクセシビリティ」だが……
今回は、ある交通事故の損害賠償をめぐる裁判から、システムの「アクセシビリティ」について考えたいと思います。
最初に申し上げておくと、この裁判自体はシステム開発を巡るものではありません。ただ、裁判所が問題視した障害者への配慮が、実はシステム開発のアクセシビリティ要件にも関係すると考え、取り上げることとしました。
システムのアクセシビリティ要件については、昨今かなり重要視されるようになったとはいえ、未だ「まずは基本機能を固めてから」「予算の余裕ができたら」と機能に比べて劣後されてしまうことも珍しくないようです。障害を持つユーザーへの配慮、高齢者が使いやすい画面設計、音声読み上げへの対応といったテーマはしばしば「望ましい機能」の棚に置かれ、必須要件としないプロジェクトが一定数あるのではないでしょうか。
しかし、こうした判断が法的なリスクをともなう可能性があることを、多くのITユーザーはまだ十分に認識していないかもしれません。今回取り上げる裁判事例は、交通事故により亡くなった聴覚障害を持つ児童に関する損害賠償事件です。これ自体はシステム開発と無縁の事件ではありますが、裁判所が示した「合理的配慮」と「社会的障壁」に関する理論は、ITユーザーがシステムを調達し、要件を定義する場面に対して、見過ごせない示唆を与えています。
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細川義洋(ホソカワヨシヒロ)
ITプロセスコンサルタント
経済産業省デジタル統括アドバイザー兼最高情報セキュリティアドバイザ
元東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員
筑波大学大学院修了(法学修士)日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステム...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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