「合理的配慮」は法的義務なのか?
大阪高等裁判所 令和7年1月20日判決
「障害者差別解消法においては、令和3年6月までに行政機関等のみならず、民間事業者に対しても、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思表明があった場合は、実施の負担が過重でないときは、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、必要かつ合理的な配慮を提供することが義務付けられるに至った」
「行政機関、民間事業者を問わず、事業主は、(中略)補聴器に加えて、手話や文字、音声認識アプリ等の補助的手段を使用してAが適切に対応できる環境を整備して提供する法的義務があるというべきである」
事件番号 令和5年(ネ)第619号
裁判所は、「合理的な配慮は法的な義務である」としました。無論、「合理的」と言っているわけですから、経営的、時間的、人的に可能な範囲で、ということになるとは思いますが。ただ、できる範囲での配慮は法的にもしなければいけないということになり、この考え方を踏襲すれば、アクセシビリティ要件の検討と定義、および可能な範囲での実装は、システムを導入する際のユーザー側の義務であると考えられるわけです。
そして、仮にシステム開発をベンダーに発注する場合、ベンダー側もユーザーがアクセシビリティ要件を考慮していないときには、その旨を告げてこれを定義するよう仕向ける義務が発生する可能性も出てくるかもしれません。なぜなら、他の判決では、「ベンダーには専門家として要件の不備を指摘する義務がある」という主旨の判断が出されているケースが複数あるからです。
音声認識アプリとの連携を想定していない業務システム、字幕表示機能を持たないウェブ会議ツール、スクリーンリーダーが読み取れない画面設計──こうした仕様のシステムは、その利用目的によっては配慮義務に欠けるとされ、それが原因で発生した損害の賠償を求められる……。そんなことも十分に想定できるわけです。もしかしたら単に「文字が小さかった」というだけで何千万円、何億円もの賠償が必要になるかもしれません。
このシステムは「誰が、どう使うのか」
大切なのは、要件定義において「このシステムは誰が、どのように使うのか」を広く検討することです。社内システムであれば、実際に高齢の社員や障害を抱える社員にヒアリングをするのが効果的でしょう。
外部に向けたシステムではそうもいきませんので、ブレストなどでできる限り想像を広げることが大切です。無論、それですべてがカバーできる訳ではありませんが、そうした努力をしたこと自体がユーザーに納得感を与えますし、仮に不満があっても、それは損害賠償というより「改善要望」という前向きな行動につながってくると思います。
忙しいシステム開発プロジェクトでは、「アクセシビリティ要件にばかり時間を割いていられない」という事情もあるとは思います。しかし、これが法的な義務と判断される可能性が出てきた現代のシステム開発においては、アクセシビリティもセキュリティと同様に「あまり前向きではないが、必須の検討項目」になったと考えられるのではないでしょうか。
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細川義洋(ホソカワヨシヒロ)
ITプロセスコンサルタント
経済産業省デジタル統括アドバイザー兼最高情報セキュリティアドバイザ
元東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員
筑波大学大学院修了(法学修士)日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステム...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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